9話

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9話

 研究会がたどり着いたのは、前時代的な研究施設らしかった。 彼らの前に立ちはだかった扉を開くと、鉄筋コンクリート造のエントランス。 頼りない灯が頭上から全体を照らしている。5人が入ってきた後ろを除く前方と左右に、廊下がまっすぐ伸びており、扉が規則的に並んでいる。 一つ一つ暴いていくと、事務室のような部屋、手術室のような部屋などを発見。侑太や宗司は棚や机に放置されてていた書類などに目を通していく。 「なんて、書いてあるの?」 「うるせぇな、えーと…」  侑太は書類の文面をたどたどしく読み上げる。 侑太が手にしている書類は、兵衆(つわものしゅう)、と呼ばれる者達に関する研究状況の報告書である。 骨や筋肉繊維を異界物質に置き換えた、サイボーグ兵士を開発していたらしい。 「そんな、特撮じゃないんだから?」 「ここがそうなの?高島くん、知ってた?」 「いや、俺も聞いた事ない…」  一行がさらに探索していると、頼子が不意に鋭い声を発した。 宗司もすぐに気付く。5人が探索している部屋の扉の前に、神魔が集まってきているのだ。 斗真、宗司が変身して廊下に切り込むと、そこにいたのは手術衣や軍衣に身を包んだ屍鬼。ラッシュ時のように蠢いている群れを、光の槍と白刃が薙ぎ払う。 「ねぇ、奥にも何かいるみたい。こいつらとは違う奴」 「…土蜘蛛か?」 「知らないけど、ひょっとしたらそうかも」 「どうしよう…高島くん」  奥に進むか、引き返すか。 戦力が揃っている事もあり、一行は奥に進む事に決める。 やがて数十体の土蜘蛛と遭遇するが、5人の敵ではない。八方に散ったクモの怪人を、<ルー>の槍が貫き、<シユウ>の斬撃の渦が噛み砕き、<ブリギッド>の炎が焼き払う。 貞夫も殺害は気が進まないようだったが、3人の攻撃の間を縫って迫る土蜘蛛がいれば、これに発火させた。  さらに奥。 廃道奥の、異界の核となる部屋にはすらりとした青年が立っていた。青年は顔を見るなり、都市伝説研究会か、と口にした。 「知ってるのか?」 「あぁ、知ってるよ。17にもなって探検ごっこに勤しんでいる暇な奴ら。先日はうちの妹が世話になったね」  葛鹿彦、と名乗ると青年は肩を竦めた。 「そう言うそっちも忙しいようには見えないぜ」 「まぁね。今、一仕事片付いたところだ。…ここが何か知ってるかい?」  葛鹿彦は聞かれてもいないのに喋り出した。 かつて名古屋に駐屯していた第3師団。彼らの一部が、名古屋城の地下に異界を形成し、戦局を逆転させる兵器を開発していた。 その名も「ヤマトタケル」。肉の身体を持ち、ひとたび起動すれば日本の敵対者を殺戮して回る有機兵器。 「つい最近、子孫の家から鍵を拝借してね――」 「おい、逃げるぞ!」 「もう遅いよ」  侑太が何かに気づいた様子で叫ぶ。 葛鹿彦は蜘蛛の怪人に変化すると、臍から糸を発射。 5人の入ってきた入口の側に糸を張り付け、ワイヤーに巻き取られるように滑空。 宗司は逃げ去る葛鹿彦の背中を、『疾風』を浴びせて斬り捨てるも構う暇はなかった。 部屋全体が鳴動し、突き当りの壁から腕が2本、生えてきたのだ。  壁を破り、古代の戦士のような恰好の巨漢――ヤマトタケルが出現。 ヤマトタケルは気流を操って生み出した風の刃を振るい、一直線に研究会メンバー目がけて突っ込んでくる。 <ルー>が槍を三度続けて素早く繰り出すも、ヤマトタケルはこれをあっさりと躱す。<シユウ>に変化した宗司が前に立ち、斬りつけるもヤマトタケルは止まらない。  <シユウ>の刀とヤマトタケルの風刃がぶつかり合う。 侑太や頼子、貞夫たちが巻き込まれることを恐れて部屋から出ていき、二対一の構図になる。 炎による援護を受けつつ、ヤマトタケルに攻撃を浴びせていたが、圧倒しているとは言い難かった。 軽い負傷はすぐに塞がるし、攻撃も正確だ。膂力もあり、<シユウ>の左胸や右肩についた傷口からは血液が流れている。 面白い、と宗司が内心ほくそ笑んだ頃、ヤマトタケルの姿が、突如として薄れ始める。 「え、消えた!?」 「…!」  <ルー>が狼狽える中、<シユウ>は一度刀を鞘に納め、もう一度抜き放った。 轟音とともに壁の一角が崩れ、そこに透明な何かがいる事がわかる。ヤマトタケルの姿は無く、神魔の気配も感じられない。 周囲は荒廃した地下室の匂いで満ちている。ただ、音は消せていない。猫の足音の如く微かな物だったが、近づいてくれば宗司に位置がわかった。 轟音と共に空気が渦を巻き、<ルー>と<シユウ>に襲い掛かる。それから数瞬の後、貞夫の短い呻き声が2人の耳に届いた。 「向こうかよ!」 「怪我は!?」 「こっちは平気だ。こいつ、炎がまるで効かねぇ!貞夫と頼子じゃ無理だ!」 「名前の通りか」  部屋から出て、通路で戦闘を再開した宗司の感覚に、複数の反応が飛び込んでくる。 名古屋城敷地内から異界・地下研究所に突入してきた、保安部の実働部隊である。程なくして2つのチームは合流。 ヤマトタケルは撃退された。後日、油津姫含む土蜘蛛の一部が捕らえられる。彼らは皮膚の下に霊子チップを埋め込まれ、居場所を24時間探知される代わりに助命。保安部の戦力として管理される事で話が決まったと、宗司は侑太から聞いた。
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