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エレベスタ=バーリアの再登場
暗闇の中をグルグル行ったり来たり止まったり。自分が今何処にいるのか検討がつかなくなった辺りで椅子が完全に動きを止める。
「ガケップ様、お待たせいたしました。目的地に到着いたしました。」
暗闇の中、紳士の声が聞こえて椅子が回る。
「主様、連れて参りました。」
衣擦れの音が聞こえる。多分、頭を下げたのだろう。
その音が止まない内に、スポットライトの光が目を焼いた。
「っ」
闇の中、照らされたのは2ヶ所。
いつの間にか紳士が消えて拘束されたまま座らされている俺1人。
そして俺の正面。大きな雛壇、あるいは階段の上に立っている長身の人影。
目が少しだけ慣れて、凝らしてよく見ると、人影は背中を向けていた。
赤かオレンジ色の矢鱈とキラキラしている燕尾服。
ハトでも飛び出てきそうなシルクハットも燕尾服同様にキラキラ輝いている。
細長い足はスポットライトに照らされて背の高い綺麗な二等辺三角形を地面に映していた。
手には足ほどは長くないステッキ。
たった1人、微動だにせず立っているだけでその姿は喝采浴びるスターの様な……とても映える、絵になる姿だった。
「ご苦労ッ!
貴方は戻りなさい。」
スポットライトの向こうの暗闇で動く気配がした。
「そして、ようこそ!
我らが地下理想郷へ!」
足音を響かせて人影が揺れ動く。多分振り返ったのだろうが、未だ光に慣れきっていない目がその姿を目にする事は出来ていない。
しかし、声だけは聞こえる。明朗快活、朗々と、朗らかに、歌う様に話す。
「貴方の事は、聞いています。
ミスター、ガケップ。
波乱に満ちた状況を嘆き諦めずに足掻いてきた!
しかし!あと僅かの所で阻まれてしまい、自由を奪われ、ここに居る!
その無念、如何なるものか、私は知っている!
嗚呼、私はその嘆きを!悔しさを!そして隙あらば一矢報いんとする隠された奥底にあるそれを、知っている!」
朗々としていた歌声が曇り、嵐に変わる。その言葉には、明らかに私怨が籠っていた。
そして先程までの朗々としていた美麗な歌声と言葉よりも、その私怨と嵐に満ちた本音の方が不安に覆われていた心の奥底を刺激した。
「貴方にも、それがあるようですね。
……我々は、そんな貴方を、心の底から歓迎いたします。」
影が大きく手を叩く。爆ぜた空気は響き、反響して、周囲を正午の太陽の様に照らした。
「っぅ」
眩さに慣れかけていた目が再度光で焼ける様な感覚に襲われて思わず目を瞑る。
次に目を開けたときに見た光景は驚きそのものだった。
30名を優に超えるそれぞれの年齢も性別も何もかもが違い秩序の無い、しかし何故か一つの集団だと確信出来る人々が周囲に立っていた。
だがそれだけではない。
スポットライトの時には見えていなかった周囲の状況を見てしまったから。
黄金、黄金、宝石、黄金、黄金、宝石黄金宝剣絵画彫像絵画彫像陶芸宝石陶芸宝石黄金黄金黄金宝石黄金金金金金……
商人が一度は夢見る財宝の山がそこには広がっていた。
「では、改めまして。
ガケップ、ようこそ!我々一同は貴方の来訪を歓迎いたしますわ。」
シルエットでしか見えなかった声の主が黄金に照らされながらこちらに顔を見せた。
「私の名前はエレベスタ=バーリア、嗚呼よろしくガケップ。我々は貴方の様な人材を心の底から待ち望んでいた!」
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