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温もりの通ったそれが大好き
「うっ うっ うぅぅぅ、ふー ふー ふー ふー ふー
ふー………すー はー すー はー……………」
ある程度暴れて、獣のような唸り声が収まっていって落ち着くと、疲れたのか眠ってくれた。
「こんなことやってくれたんだ……それなのに『なんてことない』みたいなこと言って平気な顔してたんだ……」
ちょっとだけ体が痛いけど、嬉しかった。
自分がやってもらった事の意味を知れた。彼の優しさを知れた。彼の力になれた。
落ち着いてくれて良かった。
息を大きく吸い込んで、気分を切り替える。
「さーあー、もう1人も大変みたいでーすしー、そっちにもいこうかなー……」
薬品で濡れた足で、隣の球体に潜り込もうとして、止まった。
球体の中には2人いた。
いつの間にかむせる声がしなかった方の球体から1人が抜け出して、もう1人と手を繋いで眠っていた。
2人とも呼吸はあって、ゆっくり眠っている。
彼からの指示を果たせないけれど、このまま眠らせて、着替えと説明はまた今度にして貰おう。
一生懸命話せば聞いてくれる。
私に考えがあれば思いやってくれる。
私のことをなんだかんだ解ろうとしてくれる。
そう考えられる自分がいることが、意外で、嬉しくて、心が軽くなる。
「そうか、眠ったのか。なら、3人にこれを着けさせて次のことを幾つか……お願いする。」
手術を終えていた彼はそう言いながら懐から金属で出来たバッジを3つ取り出した。
「これってーなーに?」
「その首に着いている代物の簡易版だ。それほど高性能ではないが変化があればこちらに伝わる。
乾燥機の場所と操作方法は覚えているか?」
「調理装置の横の緑色の柱。
足元の赤のレバーを押―して、動かすことが出来て、緑色のレバーで形を変えられーて、でー、動かし方は前に訊いたときに書いてくれたーから大丈夫。」
「なら、バッジを着けたら乾燥機をセットして彼女らの服を乾燥させるように。
それが終わったら次の指示をする。お願いする。」
そう言って未だ眠っている子の方へと戻っていった。
たどたどしいお願いをする様子は少しおかしくて、可愛い。
「さーて、ご主人様のお願いなんでー、ちゃちゃちゃっと、すましましょーう。」
背を向けて作業に取り掛かる。
だから私はその後ろで彼が何をしているかを、彼が何故ああなったかを知る事が出来なかった。
全身どこもかしこも弱っていた。
臓器が衰弱し切ってまともに機能しておらず、筋肉は心筋に至るまで痩せ細っていた。
だがそれでもこの子は非常に屈強だった。
これが今の今まで体内に居たのにもかかわらず、感染症に罹って瀕死程度で済んでいる。この成長度合いだと、これが居たのは3年、いやそれ以上だ……。
最期の力で人の頬を殴って吹き飛ばした犯人に目を向ける。
血に塗れたそれの見た目は奇妙な塊だった。表面は白く、滑らかでつるりとしている。
その塊からは無数の白く細い体が伸びて、それは一見すると植物の根のようにも見える
そのだが、その根の先端には細かい歯が付いて、必要の無い目の代わりに発達した鼻があり、新鮮な肉と臓物を貪る。
乳児の頭ほどの大きさ。その正体は寄生生物。
この子は今までこの寄生生物に食われかかっていた。
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