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その瞬間を彼女は知らない
『好きに使うと良い。許可なんて不要だ。』
ここで生活する時にそう言われていたから遠慮無く使わせて貰う。
水を良く吸う厚手のタオルを床に敷いて、そこに3人を運んでもらう。
いつの間にか手伝いに来てくれたサイコロの人形達がせっせと動いてくれる様子はなんだか可愛い。
起こさないように、慎重に、もう一枚用意したタオルで髪や体を最低限拭く。
汚れは落ちているけど、長い間放置されて傷みきっているのが解る。
薬液で少し綺麗になった、それでもボロボロの布にバッジをつけ、近くに用意してあった乾燥機を展開して、スイッチを入れる。
それと同時に温風が吹き出して、3人の眠る一帯を温める。
床だって下に何かの配管が通っているとかで温かい。
これで良しだ。
「さーてー、ご主人様、一体どのようなご用件でーすかー?」
私に背を向けた彼が急いで手元で何かを動かす音が聞こえる。
近付いて見ようとすると、そこには前より顔に赤みがさした女の子が小さな寝息を立てて眠っていた。
「術後で眠っているが、あまり大きな声を出さないように。」
「あ、ごめんなさいー。」
迂闊だった。
「向こうの3人の様子は?」
「バッチリー。髪と体は最低限拭いておいたー。あとは乾いたらおしまーい。」
「そうか。では、次に取り掛かる。重要な事だ。」
「えー、何するのー?なーにーなーにー?」
私のその言葉に対して、彼は何故か無言。そして……
「君の治療だ。」
いつの間にか手に握っていた注射器が私の肩に突き刺さった。
でも、全然痛くない。そう言えば、私が、これ、怖くて、飲み、薬も……飲めなく、て、痛く、ない………注射器、作って、くれたん………だったっけ……………
「任せた私に非がある。だから責任を持って私が治す。」
眠りに落ちて崩れ落ちる寸前、正面から抱き抱えて転倒を防ぐ。
抱えた体にはあちこちに傷があった。
叩かれて腫れている、爪で出来たと思しき切り傷から血が流れている、肩や二の腕近くには犬歯が肉深くまで突き刺さった事が解るほどの噛み傷がいくつもある、殴られて痣が出来ている、擦り傷は全身あちこちにある。
子どもを止めるために生身で抑え込んだ。その結果がこの様だ。
俺が折角手間を掛けて治したというのに、またやり直しだ。
抱き抱えたまま歩き出す。
投与したものは麻酔、あと数時間は起きない。
時期だったし、丁度良い。
ベッドに寝かしつけ、首輪を外す。
そこから現れたのは痣。首を覆う帯のような痣があった。
『擬似器官装置』
手足に装置が取り付けられる。
何でもないという顔をしているが、これも大概重症だ。
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