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不快な日は災難の始まり
常々思うことが、1つある。
この世界の「境界線」はひどく曖昧だということ。
(あ──…今日もまた、一段と多いなァ。なんだよ、今日って友引だったか?)
朝、人混みに流されるまま横断歩道を渡るが…実は気が付かないだけで、かなり大量の「あちら側」の住人とすれ違っていたりする。
……首のないリーマンやら、道端に座り込む子供(顔半分が潰れている)やら、ハラワタを引き摺って歩く轢かれた猫やら…。
(あーヤダヤダ。朝から面倒くさ)
もともと"そういうもの"を「視る」質だったが、周囲の空気を読んで自分はソレらをシカトして生きてきた。
ああ、今日も相変わらず空が灰色だ。
「ンぐっ!」
会社の更衣室で制服に着替えてから、何の気なしに目をやった窓の外を───血塗れの女が薄笑いながら落下していくのが視え、思わず珈琲を噴き出した。
ちなみに、更衣室があるここは14階。しかも屋上はない。
ヤッコさんの事情なんぞ知りたくもないが、見てしまったら朝から気分が落ちるので地味に嫌だ。
(アンタのせいで珈琲噴いちまったろーが、勿体ない!)
【───シャっ!】
とりあえず見たくないので、ブラインドを閉めた。
「あれ、閉めちゃうの? 外、いい天気なのに」
「!!」
同僚に話しかけられた瞬間、全身からドっと冷たい汗が噴き出す感覚が這い上がってきて総毛立つ。
「や、少し眩しくて…」
変なものが見える…だなんてもしも周囲に知れたなら、4ヶ月は部屋に引こもるレベルで恐ろしすぎる。
いまはSNSやらと様々な媒体が簡単に見ず知らずの人間同士を繋いでいる時代だ、知り合いから漏れた負の噂に尾ヒレが…脚が生え…最終的には本来の噂からはまったく掛け離れた「別物」になりかねない。
………いや、確実に"そう"なる。
だから、そんな不肖の事態を避けるために可笑しなモノが見えていても「視えない」ライフを可能な限りで満喫していくつもりだ。
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