そして私は

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「え、何のこと?」 「あれ、とぼけるとかできんだ」  彼は本を閉じ、私の目を見た。 「まだお前の気持ちを聞いてない」 「え、言ったじゃん」 「いやいや、まだだ。恋人になりたいってことは、そういう気持ちがあるってことだろ?」  彼は追い詰めるように言う。  そして私は追い詰められ、生まれて初めて曖昧さに縋った。 「……そりゃ、多少ね」 「どっちだよ。まあどっちでもいいけど」  多かれ少なかれ、その気持ちがあるなら。 「一度ははっきりと言葉にしてほしいんだけどな」 「……ぅ」  はっきりさせたい。  普段自分がよく使っている言葉が、こんな風に自分に刺さってくるなんて。  ――恥ずかしい。  はっきりさせるのが、ものすごく恥ずかしい。  でも。  ちらりと彼を見る。彼はまだこちらを見ていた。私は目を逸らす。  ものすごくものすごく恥ずかしいけど。  それは確かに、はっきりと伝えておきたい気持ちでもあった。  私は息を吸う。 「………………………………………………すき……っ……!」  届いたかも分からないような、私の小さな叫びに。 「ありがと。俺も好きだ」  彼はそう大きく呟いた。 (了)
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