意味の無いもの

1/2
前へ
/2ページ
次へ
本日2度目のアラームが鳴り出した。私は、考えるより先にケータイのアラームを熟練の技でストップし、その一瞬で冷えた右手を布団に仕舞う。 もうさすがに起きないといけない。さっきは2度寝できたけどもうだめだ。起きろ、頑張れ、頑張れ、.......頭が冴えてきた、まぶたから光も透けてきてる、神経が行き届いてきていつでも手足は動かせるよ.......と考えているうちに、心地よい温もりの中再び夢の国へ.....。 「いっっつまで寝てんのまったく!」 ふすまを挟んだ隣の部屋から、弁当を詰めている母の朝一番の怒鳴り声が聞こえる。 「アラーム止めるのが速くなったってなんの得もないんだからね!」 ....ご最もです。 人が気を逆立てているのは嫌いなんだ。この二度寝天国の快楽と、これ以上母を怒らせた時の面倒くささを天秤にかけたら、面倒くささが勝る。 重みを以て私をがっちりホールドして離さない布団を勢いよく真っ二つにたたみながら起床。立ち上がってみれば意外となんて事ないのだ。視界真っ白になりながら母の居るリビングに顔を出し、「はい!今日もいい時間に起きれました!」と自画自賛しながら洗面所へ。 今日も一日が始まった。 私は、自分のことが大好きだ。だってみんなそうでしょう?自分のことが嫌いだったら、毎朝顔を洗って歯を磨いて髪をセットしたりしないし、ちゃんと朝ごはん食べないし、学校にも行かない。私は自分のことが好きだから、毎日全部するけど、でも同じくらい自分のこと嫌いだからそれ以上のことはできない。 いい焼き目のついたトーストをかじっていると、ニュースが流れてきて、今年はオリンピックイヤーということもあり、スポーツ選手のトピックが流れていた。期待の新星として、私と同い年の子の活躍が取り上げられていた。新競技のスケートボードか、ああいう子たちは、今日これから私なんかと同じように学校に行くんだろうか、しかしオリンピックに出れるなんて華々しいもんだ。そんな事を考えながらコンソメスープを流し込み、リュックを引っ掴んで家を出る。 学校は、嫌いだ。自分が何をしたいのか、常に見失いながら時が過ぎているような気がする。もしかしたら、そんな自分が嫌いな気持ちが先で、自衛のために自分のこと大好きだなんて思ってるのかもしれない。悲しいやつだな。私は、自分のことが好きなのに自信はない。 教室のドアを開ける前に、クラスの状況を把握する。大体の人が自分の席に座って自習していて、その他の人は友達の席へ遠征して親しげに会話している。私はわざわざ、教室の前の扉から入る。理由はないが時間を稼ぐためにスライド式の扉をゆっくり開閉していると、私に気づいた子がちらほらおっはー、はよー、と挨拶をしてくれる。後ろからはいると、大多数が前を向いている教室では警戒されるのだ、自分からは声をかけられないから。 そのまま自分の席まで、たまにおはようと声を掛け合いながらのそのそと歩いていき、そこから日中、ほとんど喋ることは無い。 自分の事だけを済ませて、一日を終える。 これで自分が好きだなんてよく言えたものだ。 いつものように、冷たさで切られるような空気を自分が切り裂きながら自転車で帰宅し、ようし、これから習い事のバレエの準備をしなくては……と思った矢先の事だった。玄関に異変を感じた。いつもの匂いじゃない。普段は、昔買っていたうさぎの餌の匂いと今の時期は灯油の匂いが混ざってうっすらと漂っていて、華やかさの欠片も無いような玄関だが、今日は……なにかの花が駆け抜けた残り香をそのまま封じこめたような匂いがして、なにやらわが家にはない、緊張感のある雰囲気が、リビングに繋がるドアから感じられた。靴は、いつも通り先に帰宅した妹のローファーと、休日に履く物しかない。そして、いつもは必ずアイドルのDVDが流れているのに、今日はニュースが流れていた。……おかしい。 妹がいつもと違う、恐る恐るリビングのドアを開ける。様子をうかがってみるとそこには…… なんか白い二足歩行型のロボットがいた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加