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「俺も行くよ」
「当たり前だろ。俺についてこなきゃ、誰について行くってんだよ。俺だぜ、俺。俺様だぜ?」
「……そうだな」
俺俺詐欺など古い手口だ、なんていうちょっとした冗談じみたことを黒時ですら思うこともある。決して口にはしないが。他人というのはあくまで観察対象なのであって、鑑賞はしても干渉はしないのだ。
栄作の後ろを黒時がついて歩くような構図で、二人は動き出した。
仲間を得たことで安堵したのか、鼻歌交じりで歩いている栄作の後ろで、黒時は神を名乗る存在が言っていた言葉について考えていた。
【真の世界】と新たな世界。
それは、考えてみてもまるで分からなかった。
新たな世界というのは恐らく、そのまま言葉通りに解釈しても問題なさそうなのだが、腑に落ちないのは【真の世界】の方である。
神を名乗る存在の口振りからすれば、この変貌した世界が 【真の世界】と呼ばれるもののような感じだったが、だとすれば、これまで生きてきた世界は【偽の世界】とでも言うのだろうか。
もしもそうだとしたら、【偽の世界】で存在していた人間とは一体……。
黒時の思考が停止した一瞬、折りしも地面が揺れ、二人の歩みが止められることとなった。
「な、なんだ――!?」
「地震?」
怯えうろたえて、その場でじたばたとする栄作。それとは対蹠的に、冷静に現象の把握に努める黒時。
しかし。
結果として、黒時の分析は大きく的を外れていた。
突如起こった地面の揺れは、地震のような自然によって発生するものではなかったのである。
引き起こされた。
あくまで人為的に。
悪魔が悪意的に。
「…………」
「…………」
二人はただ、目の前に現れたそれを黙って見つめることしかできなかった。
周囲を埋め尽くすほどに存在していた黒い人影は、いつの間にかその姿を消し、それらと入れ替わるようにして現れた一つの存在。
スクランブル交差点の北側に立っていた、十階建の高層ビル。
そのビルを崩し、それは地面より現われた。
ガラスや壁の破片が宙を舞い、巻き上がった砂埃が現れた存在を覆い隠している。
やがて砂埃も地に沈み、二人は高層ビルと同等なほどに巨大なその存在の全貌を目にした。
真っ黒な美しい翼を背の左右に三枚づつ生やし、頭には曲線を描く二本の漆黒の角。
角と同じ色をした細長い尾がゆらゆらと揺らめき、どこか優雅な空気をかもしだしている。
ベースは人間。
二足で立つその姿のせいかそう感じてしまうが、人間には翼も角も尾もない。分かっている。そんなことは、分かってはいる。
だが。
黒時には、あれこそが本当の、真の人間であるように感じてならなかった。
周辺の建造物は崩れ、辺り一帯は瓦礫の山と化している。そんな中、月光に似た光を浴びて佇む神々しい存在が、ゆっくりと口を開き始めた。
『我が名はルシファー。全世界の存在を超越する者。ふむ、汝らが我の前に現れたということは、時が来た、ということか』
ルシファーと名乗るその存在の発する声は、恐ろしく威圧的で、身体全身に響かせるほどの重低音だった。
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