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黒時は、少々首を傾げる。
何が起きた? 急に夜になったのか?
瞬間的に空が暗くなり夜になるなんて事態が、起きるはずも無い事は黒時だって分かってはいるが、それ以外に答えがだせなかった。
黒時は少しの間、漆黒に染まった天を見上げ続けていた。
天からは一部月明かりのような光が優しく差し込んでいて、空は漆黒なれど地上はほんのりと明るい。
理解出来ない現象が、起きている。
黒時は天を見上げるのを止め、歩き出した。不思議だ、彼が導き出した結論はそれだった。
それ以外に何もなかった。黒時は世界の変貌にすら、興味を示さなかった。
ちなみに、もしも天からの光が無く地上すらも漆黒に染まっていたのなら、さすがの黒時も少々戸惑っていた。
なにせ、辺り一帯が見えなくなってしまうのだ。そうなってしまうと暗闇の中を帰らないと行けないわけで、家に帰るのが面倒になってしまう。目隠しをして下校しているようなものだ。
そうならなかったことへの安堵も少ししながら、黒時は何事もなかったかのように家を目指して歩いて行く。
都心にあるスクランブル交差点。
今朝立ち止まった、あの交差点である。
そこに着いたところで、黒時は更なる世界の異変に気がついた。
――人間がいないのである。
いつもよりも歩く人間の姿が少ないだとか、そういった比喩ではない。文字通り、人間が一人もいないのである。
しかし、まるでいなくなった人間の代理を務めるかのように存在する物体の姿がそこにはあった。
それは――人影だった。
大量の黒い人影のような物体が、今朝の人間たちと同じように跋扈している。黒時は、慌てて辺りを見回す。
人影。人影。人影。
人影が二足歩行で歩く姿ばかりで、人間の姿はまったく見当たらない。
人間が黒い人影と入れ替わった。
それを理解して、黒時は小さく舌打ちをした。これは彼にとって珍しい事である。
上機嫌であったからと言うわけではなく、そもそも灰ヶ原黒時という人間は感情の起伏が少ない人間なのである。
興味のある事に関してはそうとは言い切れないのだが、基本彼はドライな人間だ。
舌打ちという、不満や怒りを如実に現す行為を行った。
それはつまり黒時が今、不満を抱き苛立っているという証拠でもある。
では何故、感情の起伏が少ない彼は苛立っているのだろうか?
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