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光の人影が消え、辺りは依然変わらず人間の代わりを務めている黒い人影で満たされていた。
黒時は、己の掌を見つめてみる。
一瞬激しい光が身体を覆ったが、あれは何だったのだろうかと考える。何も変わっていないように感じる。
光の影との出来事は幻覚だったのか。それとも、立ったまま夢でも見ていたのだろうか。いくら考えてみても、答えは出そうになかった。
ふと横を向くと、黒時はある事に気がついた。
苛立ちのあまり小突いた一体の人影。その人影が、自分に並列するようにして横に立っていたのである。
黒時は光の影に気をとられて気付いていなかったが、この人影は黒時に小突かれてからずっとこの場所に立っていた。
黒時はもう一度自分の掌を見つめ、そして、横に立つ人影の頭を両手で挟みこんだ。
ゆっくりと力を込めて、人影の頭を挟み潰していく。小突いたときに感じた、硬い、といった感触がしない。
黒時はこの時はっきりと、自身の力が向上していることを理解した。
頭が軋む音が、聞こえる。きしきし、きしきし、と。
更に力を込めていく。
頭の形が変形して、楕円形となっていく。更に力を込める。ぱきぱき、と小枝が折れていくような音が聞こえた。軋み、折れて、そして――
ぐしゃ。
中が柔らかく外殻が硬い物体を潰したような、嫌な音が響いた。
人影の頭が、黒時の挟む力によって潰れた音である。
頭を潰された人影は、首元から噴水のように黒い液体を噴き出し、辺り一帯は汚らしい黒い液体にまみれた。
自身が撒き散らした液体の中に自らを沈ませていく人影のその姿はまるで、一つの生命が絶命していくかのような物悲しさが感じられた。
黒時は手についた得体の知れない黒い液体を振り払い、嬉々とした表情を見せている。黒い人影の頭が潰れる感触が、心地よかったのだろう。しかし、また手を汚したくないので、一度きりで止めた。
止めて、改めて実感する。自身の身体能力が格段に上がっていることを。
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