プロローグ

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プロローグ

――神は世界を創った――    それは、聖書に目を通すまでもなく、全ての人間が知っている事実である。    では――何故、神は世界を創ったのか。    そんなことは、神を崇め奉る本職の人間にも分からないだろうし、たとえ、全人類をかき集め議論百出してみても到底答えは出ないだろう。    知っているのは――神のみ。 ――だが。    もしも神が創ったこの箱庭の世界に、神すら予想だにしなかった出来事が起こっていたとしたら神は何を思い、何を感じ、そして何をするのだろうか。    楽しく遊んでいたおもちゃ箱。気付けばその中には汚れた物体が跋扈していた。きっと、人間ならば悲鳴を上げその箱をひっくり返す事だろう。    だが、神は違う。  汚染されたおもちゃ箱を見て、神はひっくり返す事などしなかった。気持ち悪い、とも思わなかった。    真っ黒に染まった箱庭を見て神は――優しく微笑んだのである。    慈愛の笑みか、はたまた諦めの笑みか。  神は大量発生している汚れた物体の中から一つを選んだ。気まぐれに、ただなんとなく手を伸ばし、一つだけを選び取った。面白くなる事を期待して。    神は人間とは違う。そして人間は神とは違う。    人間から見れば神は荒唐無稽でありながら、だからこそ強大で神々しく恐ろしい存在なのだが、神から見れば人間は偶然の産物に過ぎなかった。    箱庭を汚す偶然の産物。このままそれらを消し去ってしまってもつまらない、と神はそう思った。だから神は、偶然の産物の中の一つに、この箱庭の行く末を託す事に決めたのである。 ――しかし。    神も驚いた。  まさか、これほどまでとは、と更に予想を超えてきたのである。汚らわしいこの産物はどこまでも黒く濁っていて、目も当てられないほどに醜かったのである。時折光輝いていて意外にも美しいと思わされたものだったが、それも全て最後には払拭された。    神は思った。    偶然産まれたこの汚らわしく醜い人間という存在は、本質の光が見えぬほどに黒に覆われていて、そして、なによりも、神よりも。  恐ろしい――と。
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