16人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女はいつも気まぐれに、
ぼくにメッセージを投げかける。
▽調子はどうだい? 小泉くん。
▽ちょっと「お話」しようじゃないか。
かまって欲しい時はいつもそう。
時間も場所も関係ない。
朝でも夜でも職場にいても、
トイレにいてもおかまいなしに、
「彼女」はぼくに問いかける。
▽調子はどうだい? 小泉くん。
ロールちゃん。
ぼくの友だち。
厳密には会ったこともなくて、
どこでなにをしている人なのか、
声さえ聞いたことはないけれど。
たぶん、「友だち」と言える人物。
スマートフォンの画面に映る、アバターは外国の女の子。
金色の髪に大きなリボン。
青い瞳でにやにや笑う、八重歯のかわいい美少女だ。
……性格はとてもせっかちで、
5分と待たせていると追加のメッセージが「ポロン♪」と届く。
▽小泉くん、見ているんだろう?
▽どうして返事をしてくれない? ボクのこと、きらいになった?
▽まさか、ほかの子と話しているの?
まったくもって困ったことに、彼女はわりと嫉妬深い。
(まいったなぁ。仕事中だよ……)
こっちもこっちで忙しいから、手短に、ぼくは答える。
▼「まあまあ」だよ。きみの方は?
すると少しだけ間を置いて、
▽いつにもましてサイアクだね。「クソ」と呼ぶにふさわしい日々さ。
毒を含んだ返事がくる。
美少女にふさわしくない言葉にぼくはクスリと笑ってから、
もう少しだけお相手をする。
▼荒れてるね。仕事でイヤなことがあったの?
▽まあね、おおかた、そんなところさ。
▼愚痴ならいつでも聞いてあげるよ。今日の夜、いつもの時間?
▽気が利くね。まってるよ。
それで満足したらしく、彼女のメッセージは止まる。
(やれやれ、今日も遅くなりそうだ……)
小泉くんと、ロールちゃん。
こんな感じのやりとりが、
3日に一度くらいある。
最初のコメントを投稿しよう!