プロローグ 4時44分に目覚める男

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 何が不吉を表して、何が幸運を表すかなんて人間が勝手に決めていることである。空に架かる虹や、綺麗な満月――降り注ぐ流星群。それらをもし過去の人間達が不吉を表すと決めていたならそう信じるのか。少し世界が違っていたら幸か不幸かを表す事柄は逆だったかもしれないだろう。  男はそんな考え方をしていて、他人から見るとひねくれものだった。  ――我々が今立っているこの地面も全て、きっと過去を辿れば誰かが命を落とした場所なのだ。この世に留まる幽霊を怖いだ恐ろしいだなんて言っていたら足の踏み場がない。  不吉を表す事柄も、死を呼ぶほどの力は持っていない。何故なら死人が伝承していくことはできないからだ。死因に別の何かが関係していると死んだ本人以外に誰が確信を持って言えよう……。死を直接体験していない者がいい加減なことを言うな。  男は風呂場に置いておいた、生臭い黒いビニール袋を持って自宅を出た。
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