第六章

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 あの洞窟の奥の空洞で、レンが梯子一本で追っ手と応戦しているとき、後ろからハシがやってきて小さな声で言った。 「シザさんが、別の出口を見つけた」  シザは空洞に入ったときから、奥のほうから吹いてくる外界の風に気付いていた。油の臭いに紛れてわかりにくかったが、その風は確かに土の匂いを含んでいた。  風を追ってシザは洞窟を登り、人が出入りできる大きさの開口を発見した。そして、潜水作業に使う光を反射する目印を岩の床に打ち込みながら、三人がいるところまで戻ってきた。三人の先頭に立って導くとき、シザは足元だけを照らし、決して上には灯りを向けなかった。  歩いていると、突然三人の後ろが明るくなり、熱気が伝わってきた。それと同時に、前方から強い風が吹き出した。シザは、絶対に後ろを振り返るなと指示して、潜人灯をレンに持たせ、自分はラキを背負うハシの後ろへまわった。 外に出ると、そこは山肌の繁みの中だった。世界の中央部、つまり都に近くなるほど標高の高いところまで人家が建てられているが、この邑は居住帯の幅が非常に狭い。だから人気のない山肌でも、湖からの距離は近い。山には、植生の貧弱な中央部と違って潅木が群生しているが、生活には利用されていない。  そこで彼らは、夜が来るのを待った。 洞窟から出たとき、シザはなぜか一塊の固形油を持っていた。茶色っぽい普通の固形油と違って異様に白いそれは、もっと大きな塊から鋭い刃物で抉り取ったようないびつな形をしており、燃やすと透明な青い炎を上げた。普通の固形油を燃やしたときの、じりじりした橙色と全く違うその色は、この世のものとは思えないほど美しく、そして不気味だった。  その火のおかげでラキを暖めることができた。レンはシザに言われて、彼女の手足をさすってやった。足は特に冷たく、氷のようだった。そのかいあってか、彼女は夜になるころにはなんとか起き上がれるまでに快復した。  馬と荷物をやられなかったのは、不幸中の幸いだった。シザが、あらかじめハシの家から離れた繁みの中にかくしておいたのだ。
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