第一章

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 ふたりは同時に顔を見合わせた。それぞれ違う驚きで。 「あたしを?」  セリは服を乾かす手を止め、素っ頓狂な声を上げた。 「うん、だって潜水隊の人でしょ。さっきのおじさんとふたりで、油井を直しに来たんでしょ」  レンも丸い目を見開いて訴えた。  どうやらレンはセリのことを、都から派遣された潜水隊だと思っているらしい。潜水隊は、湖の中の仕事全般をする公の組織だ。養殖場や湖底から汲み上げる油井で、素人の手には負えないような不具合が発生したときは、各邑の長から都へ潜水隊の派遣を要請することになっている。  セリはしばらくのあいだ、なんと言おうか思案した。 「がっかりさせて悪いけど……あたしはそうじゃないの。さっきの爺さんも赤の他人だよ。どこの誰か、まったく知らない」 「じゃあ、あの人が潜水隊?」 「それも考えにくいな……潜水隊はひとりでは仕事しないし、あんな老人が隊にいるなんて聞いたことない。まあ、あたしも全員を知っているわけじゃないけど」  レンは不思議そうにセリを見た。 「セリは潜水隊じゃないんでしょ?」  セリは胸の中で舌打ちした。調子に乗って、ついべらべらと喋ってしまった。 「じつを言うと、もと潜水隊なんだ。辞めたんだよ」 「辞めたの?」  レンは信じられないというように叫んだ。潜水隊といえば、方々から集めた潜りの素質のある人間(潜水隊用語では「湖に愛された人間」)を、厳しい訓練によってふるいにかけたエリート集団であることは、辺境の子供でも知っている。 「まあ、いろいろあってさ」  セリは言葉を濁した。自分の選択が間違っていたとは思わないが、他人のこのような反応に動揺しないと言えば嘘になる。  セリは、もやもやした気持ちを振り払うかのように、レンの服をことさらに引っ張ってしわをのばした。 「ちょっと生乾きだけど、日があるうちに帰ったほうがいい。家に着いたらすぐに、新しい服を出してもらいな」
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