第三章

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 シザは静かに息を吸って、吐いた。 「手を上げて悪かった。同じだけ私を殴ってくれ」  セリはげんなりした。そうやってこの男は、ものわかりのいい上司を演じるのだ。 「いいよ。遠慮する」  ふたりのあいだを沈黙が流れた。セリは、つい心を許してべらべら喋ってしまったことを後悔した。 「櫓を動かす方法についての、きみの考えを聞かせて欲しい」  シザが、これまでと同じ調子で言った。  セリはきょとんとした。 「なんで」 「きみはそれをやるつもりなんだろう」 「……あたしを連れ戻すんじゃないのか」 「いまそんなことをしようとしたら、こっちの命が危なそうだ。きみの強情は身に沁みてわかっているからな。それに……私もこの櫓のことを知りたくなった」  セリは驚いてシザを見つめた。この男からそんな言葉が出ようとは。だが事実、この櫓にはそれだけ潜人を引きつける力があるのだ。  セリは図面を広げた。ハシが見つけた部品と、邑長の家にあった工具類――もとはハシの父のもの――も持ってきていた。 「これだ。やっぱり思ったとおりだ」  セリは探していた図を見つけて、うれしさのあまり叫びだしたい気分だった。シザもセリと同じ側に来て、図面を覗き込んだ。そこには、櫓を移動する方法が描かれていた。  シザは唸った。 「重心の位置が問題だ。前回よりも足が短くなっているから、この寸法の通りにはいかないぞ。それと、断層を超えるときが厄介だ」 「今夜計算する」 「私がやろう。そのほうが速い」  セリはシザを見た。確かに計算はシザのほうが速くて正確だ。セリは素直にうなずいた。こんなところで意地を張っても仕方ない。 「それと、掘削の図面は……」  セリはそれもすぐに見つけた。 「これも……」  セリは、また自分の考えどおりだったことに感動していた。 「なるほど……ひとつの風車で……」  シザも、ただ感心しているようだ。  セリは、ハシの家から持ってきた部品をひとつひとつ図面と照合した。
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