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シザは静かに息を吸って、吐いた。
「手を上げて悪かった。同じだけ私を殴ってくれ」
セリはげんなりした。そうやってこの男は、ものわかりのいい上司を演じるのだ。
「いいよ。遠慮する」
ふたりのあいだを沈黙が流れた。セリは、つい心を許してべらべら喋ってしまったことを後悔した。
「櫓を動かす方法についての、きみの考えを聞かせて欲しい」
シザが、これまでと同じ調子で言った。
セリはきょとんとした。
「なんで」
「きみはそれをやるつもりなんだろう」
「……あたしを連れ戻すんじゃないのか」
「いまそんなことをしようとしたら、こっちの命が危なそうだ。きみの強情は身に沁みてわかっているからな。それに……私もこの櫓のことを知りたくなった」
セリは驚いてシザを見つめた。この男からそんな言葉が出ようとは。だが事実、この櫓にはそれだけ潜人を引きつける力があるのだ。
セリは図面を広げた。ハシが見つけた部品と、邑長の家にあった工具類――もとはハシの父のもの――も持ってきていた。
「これだ。やっぱり思ったとおりだ」
セリは探していた図を見つけて、うれしさのあまり叫びだしたい気分だった。シザもセリと同じ側に来て、図面を覗き込んだ。そこには、櫓を移動する方法が描かれていた。
シザは唸った。
「重心の位置が問題だ。前回よりも足が短くなっているから、この寸法の通りにはいかないぞ。それと、断層を超えるときが厄介だ」
「今夜計算する」
「私がやろう。そのほうが速い」
セリはシザを見た。確かに計算はシザのほうが速くて正確だ。セリは素直にうなずいた。こんなところで意地を張っても仕方ない。
「それと、掘削の図面は……」
セリはそれもすぐに見つけた。
「これも……」
セリは、また自分の考えどおりだったことに感動していた。
「なるほど……ひとつの風車で……」
シザも、ただ感心しているようだ。
セリは、ハシの家から持ってきた部品をひとつひとつ図面と照合した。
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