第三章

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 この男にしては、表情がずいぶん柔らかくなっている。初対面の者には決してわからないだろうが。  レンは硬い表情でシザの手を見ていた。どうしたらいいのかわからないのかもしれないと思って、セリはレンの手をとってそこへ導いた。前にレンがしてくれたのと同じように。  レンは力なくシザの手に触れて、すぐに離した。そして低い声で、レンです、と言った。  三人は同じ方向へ歩き出した。誰も喋らない。セリは耐えられずに口を開いた。 「そうだ、今日はラキのところでごはんを食べる約束をしているんだ。レンも来るだろ」 「行かない。用事があるんだ」 「あ、そうか。親戚の誕生日とか言ってたよな。悪いな、忙しいのに毎日つき合わせちゃって」 「ううん」  それから、レンの家のほうへ行く曲がり角まで、誰もひと言も喋らなかった。レンはちょっと手を上げて無理に笑って、そして走っていった。  シザはその場で永久煙管を取り出して大きく吸い込み、上を向いて長く吐いてからこう言った。 「可愛い助手じゃないか」  セリは、あんたは可愛くないけどなと叫んで、そのすまし面をぶっ飛ばしてやりたかった。  セリは邑長の家から荷物を引き上げた。邑長には、寝場所を移すが仕事は約束どおり明日までやる、と告げた。どこへ移るのかと聞かれたので、お宮の近くに天幕を張るつもりだと言った。邑長はそれを承諾したので、ついでにシザの天幕を同じ場所に張る許可も得た。  セリは馬に荷物を積み、シザとともにハシの家に向かった。シザも、邑はずれにつないでいた自分の馬を引いてきた。  兄妹はふたりを歓迎した。 「食材持参って約束したけど、採る暇がなかったんだ。前借りしていいかな」  セリが申し訳なさそうに言うと、ラキは、いいのよそんなの、だってもう作ってあるもの、と歌うように言った。
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