第三章

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 夕食の前に、ハシに頼んでお宮に安置されている鎧を出して貰った。  シザは鎧を見るなり言った。 「駄目だ。大きさが合わない」 「そうか?ぴったりだと思うぞ」  セリは愉快そうに言った。シザはまじまじとセリを見た。 「きみが着るつもりなのか」 「何か問題あるのか」  セリはわざと、驚いたように目をみはってみせた。  鎧を持って母屋に戻ると、シザは礼儀作法の本に書いてあるような手順で丁重に辞する意を告げ、ハシに夕食を勧められると一度は断り、再び勧められると丁重に礼を言った。  夕食はつつましく、和やかで、あたたかかった。セリはこの邑に来て、はじめてまともな食事をしたと思った。  ふたりの客人の寝場所については、活発な議論が交わされた。  シザは、まわりくどく巧妙な言い回しを使って、自分の天幕に寝ることを皆に納得させた。セリは、例の教室に使っている前の間を使わせてもらうことになった。  夕食のあと、その教室でシザとセリは明日の作業の打ち合わせを行った。今日の午後、概要は話していたので、長くはかからなかった。  そのあとで、鎧の点検をした。 「状態は非常にいいようだ。だが、明日試用してみて少しでも不具合がでるようなら、私が下を担当する」  明日の作業分担は「上」と「下」、つまり湖面付近と湖底に分かれる。  作業内容から言うと、「上」は湖上と湖面下を行き来し、細かい調整作業が多い。一方「下」は力技が中心となる。セリは大きな力を出すことができ、防護性の高い鎧を着て「下」を担当するつもりでいたが、シザは、鎧が使えない場合は、自分が生身で湖底作業をすると言っているのだ。生身の場合、相当に過酷で危険な労働になることは目に見えている。
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