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「作業中に事故にあい、酸素不足で脳をやられてしまった。見知らぬ土地に打ち上げられ、何年もさまよったあげく、かすかに残っていた記憶を頼りに故郷の邑に帰ってきた。簡単に説明がつく……さ、できたぞ」
シザは無理やりセリの話に決着をつけ、鎧の左足を床に置いた。シザとセリのあいだには、油を注され、きれいに磨かれた鎧の各部分が、完成型に並べられていた。
セリははぐらかされたような形になったが、美しくよみがえった鎧を見た喜びのほうが勝った。寝転がって頬ずりしたい気分になった。
「私がいなかったら、自分で整備するつもりだったのか」
「当然だ」
セリはうっとりと鎧を眺めた。
シザはため息をついて立ち上がった。
「きみはたしかにとても優秀だ。だが、自信を持つことと、うぬぼれることは全然違うぞ。何ができて、何ができないか、きみは自分でよくわかっているはずだ」
「ああ。あんたの言うとおりかもな」
セリはあっさり認めた。シザの表情が少し動いた。
「反発すると思っただろ」
「む」
セリはにんまりした。
「そうそう思い通りになるものか」
シザは一度、ゆっくりとまばたきした。
「きみの言動は予測がつかないな。そこが……」
といいかけて、口をつぐんだ。
「そこが、何だ?」
悪口を言われると思ったので、セリは声を低くした。
「何でもない。おやすみ」
シザは、あっさりと扉を開けて、出て行った。
拍子抜けしたセリは、見えなくなった背中にぶつけるように、おやすみ、と応えた。
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