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シザが外に出ると、思いがけない客が待っていた。
レンが、外壁にもたれかかって居眠りしている。
「風邪をひくぞ」
肩を揺すると眠そうに目をこすり、シザを認めると、ぶるぶるっと頭を振って目を見開いた。
「彼女なら中にいるぞ」
シザは親指で戸口を示した。
「あなたと話がしたかったんです」
レンは何かを決意したような目をして立ち上がった。
シザは、ふむ、というような声を出して、懐から永久煙管を取り出してくわえた。
「恋の悩みなら、たいした助言はできないぞ」
「そんなんじゃないです」
レンは憤慨しながら、壁から少し離れて歩き出したシザに追いついて、その表情を見ようとした。そんな種類の冗談を言う男だとは思っていなかったからだ。シザの横顔は相変わらずまじめくさっていた。
「訊きたかったんです……ぼくが、少しでもセリの力になるためには、どうしたらいいか」
「なぜ力になりたいと思うのだ?」
シザは上を向いて、薄い煙を吐いた。
レンは歩きながら考えた。
「ぼく、自分に何かができるなんて、考えたこともなかったんです。ただ、この邑で暮らして、結婚して、ベークライト工場で働いて……。そういうものだと思ってました。でも、セリが来て、なぜかぼくを助手にしてくれて……ものすごく、うれしかった。もう、言葉に出来ないくらい。それで、実際にセリの手伝いをして、それがすごく楽しくて、最高に……ええと、そう、充実してたんです。
でも、今日、あなたが来て、セリと喋ったり、仕事をしたりしているのを見て……なんていうか、目が覚めました。ぼくの手伝いなんか、セリにとっては、別にあってもなくてもよかったんじゃないかって」
シザは黙って聞いていた。
「……ぼくはもっと、セリの役に立っているっていう実感が欲しいと思ったんです。セリにとって、なくてはならない存在だって自分のことを思えるように」
「自己満足だな」
シザはずばりと言った。
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