第三章

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「え? どうしてですか」 「その論理でいくと、彼女の役に立つことが重要なのではなく、きみが彼女の役に立っていると感じることが重要だということになる」  レンは、よくわからないという顔でシザを見上げた。 「きみはいくつだ? こんな簡単なことがわからないのか。順番が違うのだよ。助けを必要とする場面が先にあるのであって、誰かを助けたいと思う思いが先にあるわけではないだろう。それは単なる思い込みにすぎない。思い込みで行動したことが、たまたま他人の利益になるなんていう都合のいいことがどれだけあるものか」 「じゃあ、どうすれば」 「まず、相手をよく見ろ。そうすれば、自分がどう行動すべきかはおのずと分かる。自分本位に考えるな」 「……」 「わかったか」  レンは喉の奥で唸った。 「……なんとなく。でも、もっと考えます。ちゃんとわかるまで」 「よろしい」  ふたりは家の裏手につないである馬のところに来た。二頭の馬が、仲良く並んで立ったまま寝ていた。  シザは、馬の横に置かれた荷物の中から何かを取り出し、それをレンに向けて放った。広げてみると、夜具だった。セリのと同じものだ。潜人はみな同じ備品をもつのだろうかとレンは考えた。シザは緩やかに傾斜した地面に腰を下ろして、しきりに煙管をふかしている。崖に生えた低木に遮られて、座った位置からは湖は見えない。湖風が適度に夜気を攪拌し、少し肌寒いがさわやかな夜だ。  レンは改めてシザを見た。潜人らしく後ろできっちり結わえた髪と、鍛えられた身体のほかは、これといった特徴のない男だ。加えて、表情の乏しさや淡々とした喋り方が、印象の薄さに輪をかけている。  レンは、シザの横に腰を下ろして夜具にくるまった。 「彼女は、突然仕事を辞めて旅に出たように見えた」  シザが語りだしたので、レンはじっと耳を傾けた。
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