第三章

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「……彼女は、私のはじめての部下のひとりだ。自分の班が編成されたとき、彼女の書類を見て驚いた。潜水学校の適性試験は通常、合格か不合格かしかない。だが彼女の判定書には、欄外に試験官の驚嘆と賛辞の言葉が書かれていた。事実、彼女はまるで湖で生まれたみたいに、自在に泳ぎ回った。湖にいるときの彼女は、本当に幸せそうだった。辞めるなんて、想像もできなかった」  シザは煙を吐いた。 「もちろん、彼女の中ではそれよりずっと前に決めていたはずだ。旅に出ることをな。……だが、私は気づかなかった。つまり、彼女をよく見ていなかったのだ」  シザは、もういちど煙を吐いてから、レンを見た。 「私の言いたいことがわかるか」 「……はい」  レンは神妙にうなずいた。そして、思い出したことを言った。 「セリが辞めたのは、弟さんを捜すためなんでしょう?」  すると、シザは目を見開いた。 「弟を捜す? 本当にそう言ったのか?」 「そうです」  レンは、シザの表情の変化に驚いた。  シザは、それから長いこと考えこんでいた。 「どうしたんです」  痺れを切らしてレンがたずねた。 「……彼女に弟はいない」  シザは静かに、だがきっぱりと断定した。 「そんな……まさか」  こんどはレンが目を丸くする番だった。 「小さい頃にご両親を亡くして、都の施設で育った。きょうだいはいない。公式な身上調査書を見ているから、間違いない」 「じゃあ、セリは嘘をついていたの?」  信じられない気持ちだった。  シザは再びの沈黙の後、深刻な顔で言った。 「レン。このことは彼女に言うな」 「このことって?」
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