第三章

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 試掘孔を掘る。  本来は数本掘るのだが、今回は最初の一本がまずまずの出だったので本抗とし、そこを中心として、方位と距離を正確に測って穴を掘る。  次はいよいよ櫓の移動だ。  慎重に、足を一本一本切っていく。  最後の足を切った。思いがけない勢いで櫓が跳ね上がる。  櫓が浮いた。巨大な工芸品が。  セリは水深二十五尋の湖底から、その威容を見上げた。  虚になった脳に、その姿の細部までが完璧に焼き付けられた。  シザが、異常なしの歌を送ってきた。  ふたりは上と下で、それぞれ綱の先を持った。  浮力を調節したシザは水面すれすれで、鎧を着たセリは湖底で、互いに呼び交わしながらゆっくりと進みはじめた。  断層の下で、いったん止まった。  セリは振り向いて、曳航してきた櫓を見上げた。深緑の静寂を背景に、精巧に組まれたベーク材の間から、黄金色の光が重なり合ってこぼれ落ちている。  上ではシザが、櫓の位置を上げるため、浮きをまきなおしている。セリは先に断層の上に登り、櫓の位置が充分上がったのを確認して、歌を送る。  再び、曳航が始まった。  先ほど掘った穴まで来ると、位置を合わせてから、少しずつ浮きをはずしていった。櫓の四本の足は、すべてぴったり穴にはまった。 シザが、充填機を携えて降りてきた。  すべての柱孔へのベークの充填が終わると、シザは浮上のサインを出した。  充填機と錘をセリに預け、シザは身軽になって一気に浮上する。そして水面すれすれから、セリがつかまった綱を引き上げる。  浮上して水面から顔を出すと、大気と光が出迎えた。セリは作業手で櫓の横材をつかんで鎧を固定し、肩の固定装置をはずして身体を引き抜いた。水の中と違って、身体がとても重く感じる。  作業床ははずされているので、セリとシザは櫓の横材に腰掛けて煙管を吸った。
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