第三章

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   * 「期限は三日と言いました」  邑長に報告すると、彼女は厳しい表情を崩さずにそう言った。 「もちろん、約束どおり、三日間やりました。明日の夜明けとともに出発します。何か問題が?」  セリはゆったりと微笑んだ。  その夜は、ハシの家で宴となった。といっても、昨日の面子にレンが加わっただけだから、宴というよりも、いつもよりは少し華やかな夕食会といったところだった。  ハシがとっておきの酒を出し、シザが杯を受けた。シザはめっぽう酒に強く、少しも顔色を変えなかった。  ハシが酔いつぶれて、宴はお開きとなった。簡単に後片付けをし、お互いにおやすみを言って、皆それぞれの寝床へ下がった。レンはハシの部屋で寝るようだ。  セリが部屋で寝仕度をしていると、閉じた窓が規則的な音を立てた。潜水隊が使う伝達信号で、「開けろ」の意である。 「誰だ?」  わかりきっているが、一応誰何する。 「私だ。話がある」  男の声が低く伝わってきた。  窓から抜け出したセリを導いて、シザは家からも天幕からも同じくらい離れている納屋の前に来た。セリは慎重に距離を保って、シザと向かい合った。 「話って、なんだ」  セリは軽く腕を組み、足先で地面をいじった。ただ立っているというのは、どうにも手持ち無沙汰なものである。  それはシザも同じらしく、手を腰に当てたり、帯にかけたりして、落ち着かない。  ようやく口を開いたが、セリのほうは見ていなかった。 「明日、私と一緒に帰ってくれるか? 都まで」  セリは拍子抜けした。 「だって……はじめから、そういう話になってたじゃないか」  シザは、ふむ、と言ってあごを撫でた。 「きみがそのように認識してくれていたとわかってよかった」  そして、ぷつりと黙った。 「なんだよ、それだけか」 「それだけだ」
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