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変なやつ、と言いかけて飲み込んだ。それよりも、言わなければならないことがあることに気づいたのだ。
「あんたがいなかったら、今回の仕事はできなかった。感謝してる」
シザは、はじめてセリを見た。
そして、ふっ、と息を吐いた。セリが見たことのない表情だった。
「その言葉は、無事に都に到着するまで受け取らないでおこう。だが、気持ちだけはありがたく受け取っておく。では、おやすみ」
シザは天幕のほうへ歩み去った。
素直じゃねーな、とセリは呟いた。
翌朝、暗いうちにふたりは出発した。
セリは差し出されたラキの手を握り締め、シザは丁重に最敬礼で応じた。
馬を走らせるにつれ、セリの中に違和感が湧いてきた。
最初の難所である竜骨峠に差し掛かる手前で、違和感は最大になった。
「そうか!」
突然セリは叫んだ。
「どうした」
「シザ、あたしは戻る」
「どうした、忘れ物か」
「ああ。とんでもない忘れ物だ」
言うがはやいか、セリは馬を反対方向へ向けて走り出した。
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