第四章

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第四章

 ハシの家に人気(ひとけ)はなかった。二三度呼ばわり、裏手にも回って確かめたあと、セリとシザはお宮のある岬の先へ向かった。  そこに、お宮の掃除を始めようとしているハシがいた。 「ハシさん」  セリは呼びかけた。 「おや、どうしました。忘れ物ですか」  青年は仕事の手を休め、晴れやかな笑顔で応じた。 「ラキは?」 「レンの家に行くといって、つい先ほど出かけましたが」  セリは、ぎゅっと目を瞑って天をあおいだ。 「シザ、一緒に来てくれ。ハシさんも」 厳しい声でそう言うと、セリは駆け出した。  レンの家に走りながら、セリはなんども歯噛みした。もっと早く気づいていれば、手の施しようもあったかもしれないのに。  戸口で呼ばわると、さいわいに本人が出てきた。 「セリ! やっぱり戻って……」  セリは少年の歓声を小声でさえぎった。 「レン、ラキは来てるか」 「いないよ。家にいるんじゃ……ないの」  レンの声は、セリと後ろの青年ふたりの顔を見て、たちまち不安の色を帯びた。 「家の人に、ちょっと出かけてくると言え。そうだな……あたしたちが、天気が崩れそうだから引き返してきたってことにして」  これならまるきり嘘にはならないから、レンの態度も自然になる筈だ。申し訳ないが、現状ではレンの両親も味方かどうかわからない。最悪の場合、邑人全員が敵ということだってあるかもしれないのだ。  歩きながら、セリはレンに耳打ちした。 「ラキが、人柱にされるために誘拐された可能性がある。邑長とその息子に」 「まさか……」
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