第四章

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 すがるようにセリを見たが、彼女の真剣な表情は崩れない。 「三日の期限を設けたのは、儀式の前に邑から立ち去ってもらいたかったからだ。レンが連れてきた手前、断ることもできなかったんで苦し紛れにそうしたんだろう。いつも風車の番をしてる連中にあたしの助手をさせなかったのは、計画が漏れることを恐れたんだと思う」 「ラキは、おばあちゃんの家にいるの?」  レンは呟いた。おばあちゃん、という間の抜けた響きが、ふわふわと耳の奥にこだました。 「そうかもしれないけど、正面きって行ったって相手にされるわけがない。儀式は湖に面した場所で行われるはずだ。いまから装備を取りに行って、あたしとシザで湖の中から探す」  レンに耳打ちしながら、同じ内容を潜人手話でシザにも伝えた。シザはそれを、ハシに耳打ちする。ハシの顔色がみるみる青ざめた。 「じゃあ、急がないと」  レンの声は震えている。 「走ったりしたら怪しまれる。誰が見てるかわからない。こらえろ」  レンの喉から、押しつぶしたような音が聞こえた。  広場を過ぎて、ハシの家に向かう道の端に、さっきはいなかった若い男がひとり立っていた。邑長の家のそばで何度か見かけたことがある顔だ。そこは湖に面した崖の上で、ただの草地に見える。 「誰です」  セリは小声でハシにたずねた。 「邑長の息子の取り巻きのひとりです」  セリはさりげない様子で男に近づいた。 「お宮のラキって子を探してるんだ。見かけなかったか」 「さあ、知らねえな」  潜人なら誰でも見やぶれる嘘だった。声の調子や視線の動きから、嘘をついているとわかるのである。  セリは皆のところまで戻ると、普通の速度で歩き出した。他の三人もついていく。歩きながら、セリとシザは手話で素早く会話し、男から見えない位置にまで来ると、セリは走り出した。
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