第四章

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 シザが湖に飛び込むと、セリが目から上だけ出して浮かんでいた。湖上の様子を見ながら、喉と耳は水につけて水中で会話するやり方だ。シザも同じようにすると、セリの喉歌が聞こえた。 (人がいる。ラキは見えない)  シザが見上げると、湖面からおよそ十尋の岩棚に、たしかに複数名の人影が見え隠れしている。 (突入するか?)  シザは訊いた。 (待て……あれは?)  セリが見たのは、崖づたいに岩棚に近づくレンの姿だった。 (無茶はするなと言ってある)  シザがそう言った直後、レンは岩棚の上に飛び出した。  セリは湖上に口を出して、小さく叫んだ。 「あの、莫迦!」  前へ出ようとするセリを、シザが制した。 「私が行く。きみはここで待機していてくれ」  それより少し前。 「大声出さないって約束してくれるよな。俺も美人の頬っぺにさるぐつわの痕がつくのは嫌なんでね」 崖の上で、邑長の息子が、取り巻きのひとりが捕まえているラキに顔を近づけた。 「かわいそうだから、とりあえず縛るのは手だけにしといてやるよ。投げ込むときには足も縛るけどな。おまえの尊い犠牲が邑を救うんだから喜べよ。おまえの母さんと同じようにな」 恐怖に震えていたラキは、母のことを言われたとたん、キッと相手をにらみつけた。 息子は構わずに喋り続ける。 「それに引き換え、おまえの親父は何だ。わけのわからん機械を作って、水神様鎮めの儀式をやめるなどとぬかしおった。それで水神様がお怒りになり、結局おまえの母親が身を投げるはめになったのだ。おまえの母親はあの男が殺したようなものだ」
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