第四章

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「セリさんは?」  穴の下に来たシザに、ハシはたずねた。 「あとから来ます。とりあえず、このふたりを休ませなくては」  自分がこのまま崖を登り、邑長の息子を下ろして洞窟の床に寝かせたのち、再び降りていって、こんどはラキを上げる。無駄がないのはこの手順だ。そう考えて、シザはレンを見た。  彼はラキを背負ったまま、全身で息をしながらシザをにらみ据えている。  シザは一瞬だけ逡巡したのち、背中の男を地面に下ろし、レンに歩み寄った。 「女性が先だ」  ぐったりと力の抜けた少女の身体が、レンからシザへ引き渡された。  シザは慎重に岩を登り、ハシと協力してラキを横たえた。  そのとき、穴の奥の暗がりから何かが飛び出し、水のない湖へ飛び込んだ。 「お父さん!」  ハシが身を乗り出して叫んだ。それから、はっと気がついてシザを振り返った。 「セリから聞いています」  シザは冷静に答え、影の行方を追って入り口まで戻り、下を見た。  老人が、気を失っている邑長の息子を担ぎ上げようとしている。そばでレンがおろおろしながら見ている。  シザは素早く降りていき、老人の前に立った。 「ご老人、その男をどうされるおつもりか」  大の男を軽々と背負った老人は、鋭い眼光で見返した。  シザは身構えた。  老人から、触れると切れるような気が伝わってくる。  ふたりは、一分の隙もなく対峙した。  やがて、シザが緊張を解き、道を開ける姿勢をとった。  老人はしっかりした足取りで歩いていき、シザとレンが見ている目の前で、見事な登攀技術で岩を登っていった。 「あの人、ぼくを助けてくれた人だ」  邑長の息子を背負った老人が崖を登りきったとき、レンが呟いた。 「あいつをどうするんだろう」 「安全な場所に運ぶそうだ」
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