第四章

16/18
前へ
/122ページ
次へ
 前方を照らすと、奇妙な形の岩があった。  白っぽくなめらかで、まわりの岩とはあきらかに質が違う。  上へ長く伸びた円柱形で、太さはふたかかえほどもあり、根元は蛸の足のように枝分かれしている。そのうちの一本は、くの字に曲がって地面から少し離れており、先端にはいまにも滴り落ちそうなしずくがついていた。その下の地面に、油溜まりができていた。  シザは、どこかで見たその形を思い出そうとした。  記憶の中の像が、目の前の光景と火花をあげてつながった。  思わず、潜人灯をとり落としそうになった。  そこにあるのは、水かきのついた、巨大な手だった。  レンは、洞窟の入り口の梯子を昇った。ベークライトの廃材で作った、手製の細い梯子が、急な斜面に立てかけてあったのである。ハシが作ったのだろうか、とレンは思った。 地上に顔を出すと、目の前に湖を向いて建っている祠があった。見慣れた風景にほっとしかけたが、すぐに祠の中に鎧がないことに気づき、一連の現実に引き戻されて暗い気分になった。ハシは、セリが油井櫓をなおすのに使った鎧を、まだもとの場所に戻していなかったのだ。  あたりを見回して、誰もいないことを確かめてから、そうっと身を乗り出した。  岬の袂にあるハシの家までは、わずかであるが起伏があり、直接見通すことはできない。  レンは、向こう側が見えるところまで登っていって、起伏の頂上に腹ばいになってそちらを見た。そして目を疑った。  何人かの人間が、松明をかかげてハシの家のまわりをうろうろしていた。  窓からは、火と煙が出ている。  家の中のものが、燃えているのだ。ハシの家には、都から持ち帰った書物や教材がたくさんあった。レンもそれらを使って勉強したし、また小さな子供たちに教えもした。 それらのものが、燃えているのである。  レンは思わず立ち上がった。  家の周りにいた男たち(岩棚にいた男たちとほぼ同一らしかった)のひとりが、その動きに気づいた。 「いたぞ、あそこだ!」  レンは後ろを向いて走り出した。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加