第五章

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 静けさが、彼女の目を覚まさせた。  上質な夜具に包まれた身体はすっきりと軽く、吸い込む空気には塵ひとつ混じっていない。壁にも床にも天井にも、しみひとつ、ほこりひとつついていない。なにもかもが、新しく生まれ変わったようだ。  セリは幸福な気持ちで夜具を抜け出し、寝台から降りた。  ベークライトの窓から、清らかな光が差し込んでいる。透明度の高い上級品だ。  留め金をはずして窓を開ける。大好きな潮の香りを含んだやさしい風が、あいさつがわりに顔を撫で、後方へ流れ去っていく。  ドアが開き、おはようと元気な声がした。つい昨日入隊した弟だ。 「ああ、おはよう。そうか、同じ部屋だっけな」 「そうだよ。姉ちゃんの鼾がうるさくて寝られなかったよ」 「よく言うよ」  セリは微笑んだ。あんなに小さくて虚弱で、ちょっとこづくとすぐに泣き出した弟が、潜水隊の試験を受けて合格し、一年間の訓練にも耐えて正式入隊したなんて。 「いま、ラキが朝ごはんを持ってきてくれるって」 「本当に?うれしいな」  ふたりは窓際の卓に向かい合ってすわる。  弟はセリの顔を見てにこにこしている。 「どうしてそんなに笑ってるんだ?」 「だって、うれしいんだもん」  それを聞いて、セリの顔もほころんだ。そう、ずっとこうだった。子供のときからずっと、姉弟ふたりだけで……。  開け放った窓から、なまあたたかい風が吹き込んだ。  またドアが開いて、かわいらしい少女がおどるように入って来た。 「おはよう。朝からがんばっちゃった」  陽気に言うと、掲げていた盆を正面に捧げもって、芝居がかったお辞儀をした。 「何を作ったの?」弟が待ちきれないように立ち上がって、盆の上を覗き込む。セリも首を伸ばしてそれを見た。  少女の顔を隠した盆の上で、やぶにらみの無表情をしているのは、稚児だった。  セリは、身体が裂けるかと思うほどの、ありったけの叫び声を上げた。
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