言ってくれないんだね

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言ってくれないんだね

中の引きちぎられるような痛みと、力が入らない体と、止まらない震えと涙、それをどうしたらいいのかも考えることができないくらいの恐怖を残してお兄さんは何も言わずに逃げるように帰っていった。ここからは人が見えず雨の音が余計に苦しくさせた。 時間が経っても現状は何も変わらず、自分で立つことができない。ここで死ぬのかと思うと怖くて止まらない涙と一緒に声が出た。 「どうした!?」 声が聞こえたらしく、人が来た。でも、また襲われるんじゃないかと思うと安心できず、必死に体を隠した。 「何もしないから、何があったのか教えて」 本当に何もしないのかもしれないけれど、信じることができなくて首を横に振る。 「立てない?」 ゆっくり頷く。 「怖い?」 頷く。 「ごめんね」 そう言ってゆっくり僕の体を抱きしめた。温かくて、優しく抱きしめられて苦しかった呼吸が楽になった。枯れかけていた涙が溢れる。 「うぅ…こわ、かった…」 「うん、頑張ったね」 背中をさすりながら制服を着た男子高校生が僕が泣き止んで落ち着くまで抱きしめていてくれた。 「何があったのか聞いてもいい?」 「その…おにいさん、に…いきなり、ぬ…脱がされて…あの、入れられて…」 「お兄さんって…」 「わかんない…」 「そっか、立てる?」 「うん、もう大丈…夫」 「話すの辛いと思うけど、一緒に交番に行くから事情話してそのお兄さんを見つけてもらおう」 「うん」 途中で聞いた蓮という名前の男の子と一緒に交番に行き、事情を話した。 「家ここの近く?」 「少し歩いたところ」 「送ってく」 「ありがとう…その…いろいろ、してくれて」 帰り道を並んで帰った。蓮くんは暗い雰囲気の僕を気にしたのか話を繋げてくれた。 「そりゃあ、こんなにボロボロなのに一人にできないでしょ」 「陽太も俺と同じ高校でしょ?何年生?」 「1年生」 「え、一緒じゃん。何組?」 「2組」 「隣だ、俺3組」 何て返せばいいのか分からず、相変わらず下を向いて黙る。 「陽太って全然しゃべんないよね、もしかしてやられそうなとき大声出さなかった?」 「出して…ない」 「なんで…?」 「その…僕は欲しがっちゃいけないから…」 「そんなことないでしょ」 「あるから」 「なんかあったの?」 つい口を開きそうになって、首を横に振る。 「言ってくれないんだね」 少し悲しそうにそう言った。
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