17人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
God in his heaven all right with the world.
神は天にいまし、世はすべてこともなし
翻訳者の匙加減の具合もあるが、神様のおかげで我々は平穏無事に生きていけると言った感じの言葉である。
元の言葉はイギリスの詩人の詩劇「ピッパが通る」の言葉で、そのピッパが一年の一度の休みを堪能すると言った感じの内容の詩劇である。
ピッパは紡績工場に務める純粋無垢な少女、イギリス産業革命時の工場制手工業に従事していた少女であることは「一年に一度の休み」と言った詩劇の中の一文で分かる。
ピッパは一年に一度の休みを歌を歌いながら石畳の町をコツコツと刻みながら歩き回ることに使う。世はすべてこともなしと言う言葉に反しながら、町では色々なことが起こっている。ピッパは色々なことが起こっていることなど知りもせずに歌いながら町を駆けゆく。
ピッパの務める工場のオーナー夫人が浮気相手の情夫と共に夫を殺し、口論をしている横をピッパが通り過ぎる、浮気相手の情夫はピッパの歌を聞き、自分がやったことを反省するのであった。
その後、大小問題を抱えた家の前をピッパは通り過ぎていく、いずれもピッパの歌で改心し、反省していくと言った感じである。
帰宅したピッパは広いのだが粗末で隙間風の吹きすさぶ部屋で「世は全てこともなし」と、歌い一日を終えるのであった。
と、言った感じのピッパが通るの解説がとある大学の文学部のゼミナールで行われた。解説が終わると同時に、一人の学生が手を上げた。
「先生、世はすべてこともありじゃないですか。そもそも、そのピッパと言う少女がこともありですよ」
教授はそれを聞いて鳩のようにくくくと笑った。今どきまだこんな純粋無垢な子がいたかと嬉しくなる反面、真っ直ぐすぎて世の中で生きるのが辛くなるのではと心配もするのであった。
最初のコメントを投稿しよう!