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来光はと言うと、髑髏を描いていた。それを見たセルゲイは首を捻って疑問を呈す顔をした。
「あれ? あなたは仏師、仏の姿を彫る方ですよね? なぜに仏の姿を描かないのです」
「人は皆、死ねば仏です。仏は神です。人は死ねば皆神です。私が彫る仏像の姿とて、実は人が膝を折り、手を合わせやすくするために考えられた『分かりやすい』だけの姿です。仏師と言う職業柄、言ってはいけないのですが…… 仏陀は入滅前に「私が死んだ後は自らを拠り所にしなさい」と、涅槃経で仰られております。仏像に縋り付いてはならないということです」
「来光さんにとっては仏像はダビデ像やモナ・リザのような芸術品の扱いなんですね」
「そう、かもしれませんね。仏を彫り得た金で日々を暮らしていると、そんな考えにもなりますよ。だから私は仏像は『神』足り得ないと思いますよ」
「姿形の無いものをわかりやすくして拝ませて金を得て特するのは誰かって話にも繋がってきますね」
来光はセルゲイの絵をちらりと見る。セルゲイのキャンバスは一面真っ黒に塗られ、白はどこにも無い状態であった。
「神とは無ですか? なかなか深いですね」
「私も、何度か宇宙に上がったのですが…… そこに神はいませんでした」
「ガガーリン大佐と同じですか」
「有名な風刺冗談ですね」と、言いながらセルゲイは真黒いキャンバスに白みのかかった明るいピンクや水色の絵の具を付着させた筆先を適当にツンツンとついていく。
「絵心がありませんもので、宇宙を絵で描くとこんな感じになってしまうんですよ」
「つまり、宇宙そのものが神と言うことですか」
「私が神の声を通信で聞いたのも、こんな星空が無限に広がる空の真下にある月面のことでした」
「神様は自分に似せて人を作ったと言うことを真っ向から否定する方が多いですね。ほら、ホストくんなんか……」
ムラマサはキャンバスにパーソナルコンピューターの姿を描いていた。パーソナルコンピューターの上には何やら蜘蛛の巣のようで丸みを帯びた網が描かれている。更にその下には老若男女の姿が継ぎ足されていた。絵を見た限りでは『インターネット』であるのだが、それを見て意味が理解出来なかった明龍は思わず彼に尋ねてしまった。
「これ? 神様の絵?」
「よくあるネットスラングで『神様をネットで見た』って言うのを絵にしてみたんです。ほら、神様って何でも知ってるって言うじゃん? それだったらインターネットで検索かければ何でも答えてくれるじゃん。その知識だって元は人の知識で、それをインターネット上に書き込んで、俺らはその知識を見ることで更に知識を深めるってことじゃん」
「ホストの割には深いじゃない。顔だけのパッパラパーだけだと思ってた」
「うちの店、富裕層のマダム(超太客)が多いんで、馬鹿だとやってられないんスよ」
「日本は頭のいい人程こう言うお店好きだっていうもんね」
「昔は『うそー』『本当?』『凄ーい』の三つを繰り返して適当に褒めるだけだったんだけどね。今は知識と教養がないとやっていけなくなったんだよ」
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