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4 神様は浮き上がることが出来る
試験は三日目を迎えた。その日の試験は「宙を舞ってもらいます」とのことで、神殿内のどこにあるとも分からない機械的な部屋に案内された。その部屋を見てセルゲイは驚いた。
「無重力実験室ままですね」
そう、セルゲイが宇宙飛行士選抜試験の際の試験にあった無重力シミュレーター室ままだったのである。彼が使ったものはワイヤーやカラビナフックで体を繋いだあくまで擬似的なものであったのだが、この部屋にはそれらを繋げるようなものは何もない。
九人は部屋の中に入れられた。試験官は部屋の外よりマイクで全員に話しかける。
「神と言うのは宙を舞うものです、皆様の宙を舞う適正を見ますので、まず、皆様は手をお繋ぎ下さい」
九人は輪を作り手を繋ぐ。すると、外より激しい風の音が聞こえてくる。台風の日に窓の外より聞こえてくる風の音なぞ比較にならないぐらいのものであった。
ふわぁ……
一番体重の軽い明龍の体が浮かび上がった。生まれて始めての体が浮かび上がる経験に困惑し、オタオタとし始める。
「な、何よこれ…… 体が浮かび上がる!」
皆の体が次々が浮かび上がる。ものの数秒で全員の体が浮かび上がってしまった。
これには皆、困惑するばかりであった。ただ、擬似的な訓練と宇宙ステーションで浮かび上がる経験をしているセルゲイだけはあまり驚きの顔を見せない。しかし、内心では体をワイヤーで繋いでる訳でもないのに、水中にいるわけでもないのにどうしてこんな空間で体が浮かび上がるのだろうかと必死に今起こっていることの原因を考えているのであった。
「皆様、体は浮かび上がりましたね? 神の御業である空中浮遊です。いきなり体が空に浮かび上がって不思議とは思いますが慣れて下さい」
九人の輪はそれぞれ手を放した、それでもふわぁりと浮き上がる状況は変わらない。慣れずに何をしたらいいかも分からずに部屋内を浮きまわる者たち、セルゲイだけは冷静に「仕掛け」の原因を探すのであった。知らないうちにワイヤーで繋がれたのではないだろうかと思い体をベタベタと触るがその形跡はない、一番可能性の高いベルトループを一個一個触り確認するが、何かが繋げられた形跡はない。直様に天井にまで浮き上がったセルゲイは天井を蹴って部屋の隅に向かった、月面の軽い重力や宇宙ステーションの無重力を経験しているセルゲイからすればこのような空間で動き回るのはお手の物である。セルゲイは部屋の隅に強力な風でも吹かせているのではないかと思ったが、それらしい送風口は存在しない。
「本当に、他の力を借りずに浮いている?」
セルゲイは部屋内を飛び回り「仕掛け」を探し回るが、それらしいものは何もない。あるのはメカメカしい何かのみである。その間にも他の皆も空中浮遊に慣れてきたのか、地に足が付かない違和感を楽しみながらに水中を泳ぐように、今の状態を楽しみ始めていた。
隆明は宙に浮かびながら腕組みをして頭を捻るセルゲイの肩を叩いた。
「どうしました? なんか眉間にシワ作って」
「どうやって浮いてるのかと言うことを考えてね…… 神というのは空中浮遊出来るのは普通なのだが……」
「人がどうあがいても自分だけで空は飛べませんしね」
「そうなんだよ。それにこれは空中浮遊ではなく宇宙遊泳に近いような気がするんだ」
「ああ、セルゲイさんが宇宙ステーションでふわふわ浮いてるのをニュースやウェブサイトで見た覚えがあります」
「ちょっと良いかね」
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