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「それでは、空中浮遊適正試験の方お疲れさまでした。皆さん、初めての空中浮遊はどうでしたか?」
皆、一斉に目を反らす。浮き上がった当初は「楽しい」と思えていたのだが、後半は宇宙酔いで「最悪」に変わってしまったからである。
「おっと、セルゲイさんだけは宇宙を経験してるので慣れてらっしゃいましたか」
「試験も含めて宇宙ステーション長期滞在も経験してるので慣れてますよ」
「200日ですか。月に行ったことも含めればもっと長いですね」
「よくご存知ですね」
「神様からお伺いしました」
宇宙ステーション長期滞在。地球軌道上に宇宙ステーションには常時宇宙飛行士が待機している。宇宙ステーションの管理、保持、無重力下の実験などを行うためである。そのメンバーは200日を目安にして入れ替えが行われているのである。
「私めなぞのことをお知り頂きありがたい限りです」
「神様は何でもご存知ですから…… それで、空中浮遊の適正なのですが」
その瞬間、無重力で気分を害した全員が「落ちたか」と諦めの表情を見せた。こんな試験をすると言うことは始めから宇宙飛行士のセルゲイを神様にするための出来ゲームだったのではないかと不満に思い試験官を睨みつける者もいた。
「慣れて頂ければいいので、全員問題はありません。そもそも、神様が空を飛ぶと言うのは神話にあるから生まれた概念ですので、別に飛べなくても問題はありません」
「え……」と、全員は信じられない表情をして驚きと呆れの感情が渦巻くのであった。
思わずにディオは尋ねた。
「神話って……」
「ああ、ギリシャ神話ですよ。ギリシャ神話で神と呼ばれるものはいくつか条件があるんですよ。そのうちの一つが空を飛ぶというものがありまして。神様であれば空を飛べなければいけないのかなと、思われましたが…… 飛べなくても問題はないと今の神様が判断しまして……」
ギリシャ神話の神の条件。空を飛べること、変身能力、不老不死…… などと色々ある。例え神の子として生まれようとその条件を満たさないものは神として認められない。
例、キュクロプス、ヘカトンケイル(天空神ウラノスと地母神ガイアの子)ゴルゴン三姉妹の末妹メデューサ(海神ポルキュスと海の怪物の女神ケトの子)などがそれに該当する。
「ん? ギリシャ神話の神が代替わりするって話かい? ゼウスか? ヘラか? それとも他の誰かが」と、ウィリアム。
「いえ、そういうわけでは……」
「全く、どこの宗教の神なんだよ。直接会う前に聞きたかったんだけど…… 今試験官さんに聞いた方が早そうだな。神様っていうのはどこの宗教の神様なんだい?」
「お答えできません」
「全く、何も答えてくれないんだな」
結局、試験官は何も答えることは無く一週間は経過した。この一週間、神様に対する感情を見る心理テストや、先に「飛べなくても問題ない」とされた空中浮遊の適正試験も何度も行われるのであった。
そして、試験の最終日。これまでの一週間を総括するグループディスカッションが行われた。一週間も常に寝食を共にしてきたせいか、皆の間には「ちょっとした」友情が芽生え、気さくに話をするような関係となっていた。
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