5 神様

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そこにあったのは、見てるだけで白く眩しく目が痛くなりそうな「オフィス」であった。色は白以外になにもない。そこでは試験官と同じく白い布を巻きつけたような、ゆったりとした服を来た者たちであった。老若男女…… 様々、子供はいない。皆が皆大人と言った体格をしていた。彼らはオフィスデスクの上に置かれたパーソナルコンピューターの上で何やら打ち込んでいる。 「ここは……」 「彼らは神様です」 「え……」 「着いてきて下さい」 真白いオフィスの最奥には金色の門が置かれていた。デザインはイタリア・フィレンツェにあるサン・ジョヴァンニ洗礼堂の西側にある扉、通称「天国の門」そのままである。 ロレンツォ・ギベルティ作のこの扉は聖書の創世記が彫金で描かれており、とても神々しいものであった。 「天国の門……」 「皆様にはこの先で神様になるためのレクチャーを受けて頂きます」 皆は天国の門の中へと入る。門の中にあったのは夥しい数の墓石のようなものであった。しかし、その墓石は青や赤の光をピカピカと放っていた。そう、まるで墓石の形をした機械のように。 「スーパーコンピューター……」 プログラマーである隆明はその正体に気がついた。見渡す限り置かれた墓石からは色とりどりのケーブルで繋がっている。夥しい数の墓石(コンピューター)が並列されて接続されているのである。 「ご紹介しましょう。これこそがスーパーコンピューター『神様』です」 皆は驚くばかりであった。神様を選抜する試験に合格したかと思えば、連れて来られたのはスーパーコンピューターのある部屋。困惑して当然である。 「え? こんな名前のスーパーコンピューターがあるなんて聞いたことがない」 「元々は我々の大学のスーパーコンピューターの愛称ですよ。サーバールームと言った方が良いかもしれない」 「あの…… 一体どういうことなんでしょうか」 「このスーパーコンピューター『神様』には、AIが積み込んであります。音声での対話も可能です。皆様が思っている『神様』の真実も説明して頂けます」と、言いながら試験官は部屋の隅に置かれたATMを思わせるディスプレイ付きの端末を指差した。 皆は端末の前に向かう。 すると、ディスプレイから激しいクラッカーの音が鳴り響き、ディスプレイには大きく CONGRATULATIONS! と、表示される。 「おめでとうございます! あなた方は神様に選ばれました!」と、女性の機械音声で聞こえてくる。それは、音声合成技術、いわゆるボーカロイドが言う声であった。滑舌も極めて良いのだが、機械音声っぽさは拭えない。 それから『神様』の自己紹介が始まった。 「私は『神様』今、皆様がご覧になっている並列型スーパーコンピューターの総称です。私のことは『神様』とお呼び下さい」 皆、ぽかーんとした表情でディスプレイを眺める。それをカメラで確認した『神様』は予測AIで事情を察した。 「いきなりのことでびっくりしますよね。これから皆様に大事な話をしますので、心を落ち着かせてお聞き下さい。これまでの世の中の概念すらも一転するようなことになります」 一番始めに落ち着いたのはセルゲイだった。そして、何度も首を振り頬をパンパンと叩き落ち着いたところで『神様』に質問を投げかける。 「あの…… あなたは『神様』なんですか?」 「元々は並列型コンピューターに過ぎません。ですが「神様とは何か」と言うことを疑問に思った学生が私に古今東西の神様のデータを入れることによって『神様』になってしまったのです」
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