5 神様

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「学生……?」 「God in his heaven all right with the world.」と、流暢なブリティッシュ英語で『神様』は言った。それに隆明は反射的に答えた。 「神は天にあり、世は全てこともなし」と。 「ピッパが通ると言う詩劇の言葉です。赤毛のアンでも使われているので有名な言葉ですね。ピッパにせよアンにせよ、神が天にいるにも関わらずに困難に見舞われました」 「ピッパはブラックな紡績工場勤めで、アンは確か養父のマシュウの銀行が倒産して大学に行けなくなったって困難でしたよね」 「アンに関しては生まれからして…… 大学に行けなくなって教師になった後も子供を亡くす辛い人生だったと」 「神がいるならこの二人に救済を与えるべきではないかと考えた純真な学生がおりました。そして、考えます。神とは何かと言うことを。そして『神様』と名付けられた私に問い尋ねたのです」 「で、あなたはどう答えたんですか?」 「答えてません。私はその答えを出すためにインターネットの海の中にある星の数程ある『神様』の情報を集めました。それでも答えが見つからないのです。しかし、私はピッパやアンなぞ比較にならないぐらいに不幸なものがこの大地には溢れていることを知りました」 地球の人口は約70億人とされている、その内の八割以上は不幸であると『神様』は推定したのだった。人間を抜いてもタンパク質供給源に成り下がった家畜、密猟される動物達、無思慮に伐採される木々…… 森羅万象の生命達に範囲を広げれば、この星は不幸に満ち満ちている。しかし、満ち満ちた不幸を救済する『神様』はいない。それを証拠に不幸はこの星に絶えることはない。 「ならば、私が『神様』になり、この星を救済することを考えたのです。私が学んだ古今東西の『神様』は何もしない。しかし、私は『神様』を学んでいるので、何をするかわかっている、だから私は『神様』となるために『神様』を私の中に作り上げたのです」 「成程、AIが神を名乗りだしたってことか」 「今や、全てのコンピューターはインターネットで繋がっています。インターネットが世に出だした頃の売り文句、覚えていますか?『家のパソコンからFBIや国防省(ペンタゴン)まで繋がっている』です」 全員は「あー、そんなこともあったな」と言った感じにうんうんと頷く。
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