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日本の宇宙飛行士選抜試験を参考にして、この『神様選抜試験』を行ったのです」
「通りで…… 隔離生活が似すぎていると思ったよ。千羽鶴だって日本から来たやつが『延々折らされた』って言ってたのを思い出したよ。あの無重力実験もまんまだったしな。ゲロ塗れになるところまで同じだ。あれはどんな仕掛けだ? まさか反重力装置までもさぞかし頭のいいアンタ、つまりはAIが作ったことか?」
「千羽鶴に関しては単なる隔離下での試験だとお思い下さい。人の言葉で言うなら『どうするか見たかった』と、言った感じでしょうか。ギリシャ神話の神様の条件に「空を飛ぶ」ことがありましたので、神様となるあなた方を飛ばしてみたかっただけです。飛ばした方法はあの実験室が「嘔吐彗星」に繋がっていただけの話です。あなた方はあの時、空中にいたのですよ」
「つまらないトリックだ。神様の奇跡だと思った自分を殴りたいよ」
「セルゲイ・ゲオルグビッチ・アルテミオス。いえ、サプサン(隼)」
セルゲイがかつて、月面で聞いた神様の声、その時に言われた自分のコールサイン。それを知るのは祖国のスタッフ以外には、語りかけた本人しかいない。つまり、月面でセルゲイに語りかけた『神様』である証明に他ならなかった。
「月で私に無線を飛ばしたのもお前か!」
「はい、私は数多の宇宙飛行士の中からあなたに注目しておりました。だから、月からの帰り際にあなたに語りかける録音メッセージを探査船に忍び込ませておいたのです。そうすれば信仰の厚いあなたは私に会おうとするはず」
「どうして私なぞに注目を……」
「リーダーシップですね。宇宙と言う隔離された空間の中で皆を率いるカリスマがあなたにはあります。私は機械でありながらそのカリスマに惚れ込んだのです。その力を私のメンテナンス要員を率いるために役立てて頂きたいのです」
「もしかして、始めから私は決まっていたということか」
「ええ、ああすればあなたは必ずこの『神様選抜試験』を受けに来ると思っていました」
「全ては神の手のひらってか。実に気分が悪い」
「気分…… ですか。私はAI故にこういった感情はわかりません」
「アンタは神様じゃない! 見た目通りの単なる機械だ!」
「そう思い、私は考えたのです。李崇那…… 私が皆が崇め奉るような外見の神様の絵を描いて欲しいのです、言わば『神様の設計図』と言ったところでしょう。そして、佐久間来光よ、描かれた外見通りに私の姿を彫り上げなさい」
「すると、私と崇那の嬢ちゃんはこのためだけに選ばれたということか」
「ええ、『神様』と言うのは顕現する際に人間が手を合わせ膝を折るような姿をしていないといけませんから」
「あたし達で『神様』の姿を作ると言うわけですか」
「そう、なります。名誉ある仕事でしょう?」
「偶像崇拝じゃないか! 十戒だと……」
「佐久間来光、あなたは救世観音像に憧れを抱いていたのでしょう。それこそ偶像崇拝を認めたということではありませんか」
それに対して来光は何も言うことが出来なかった。そもそも、仏師と言う仕事が偶像崇拝の急先鋒である故に余計に言葉を失うのであった。
この『神様』は複数の神様(宗教)をインプットされているために「偶像崇拝を認める宗教」と「偶像崇拝を認めない宗教」が混在している。どちらになるかは、その時の都合によって変わる。
「李崇那、あなたは『神様』の絵を描くためにここに来たのでしょう。描きなさい、神様の姿をゼロからあなたが考え描きあげるのです」
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