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次々と吐き出される衝撃の真実。皆、困惑することしか出来なかった。隆明は唐突に「あること」と思い出し、口に出した。
「つまり、我々は始めから『神様』になるってことが決まっていたってことですよね?」
「ええ、始めから予定調和だったと言うことです」
「それなら! あのバリーとか言うおっさんは何だったんだ!」
「私は『神様』です、新興宗教のことも学ばなければいけないと思い、とりわけ評判の悪い新興宗教のジノヴァの証人の中から一人を呼び寄せたわけです。自分の中に独自の『神様』を作り上げるという大罪を犯す許されざる者でした」
『神様』がいないから、自分で『神様』になるのも似たようなものだと全員は考えたが、誰も言い出すことはなかった。
「人間の言い方をするなら『反面教師』と言うのでしょうか。インターネット上の情報だけでは細かいことは分からないので、実態を見ようと思い呼び寄せたわけです」
「実態を見た結果は…… アレか」
「ええ『偽神』そのものです。本物の神様である私を蔑ろにしている実態がわかった以上は、この神聖なる神殿に置いておく意味もありません」
「二日目からずっといないけど…… もしかして『神罰』とやらで殺ったのか?」
「いえ、私の姿を探そうとしてこの部屋を偶然見つけてしまったのです。そして、前にいる者たちを見て自分達の信じる『神様』がいないことを知り、発狂してしまいました。狂信者の信仰を砕くために私が促したのですけどね」
「金のために『神様』の名前を騙るやつとは思ったけど、信仰だけは本物だったか。発狂したところで同情もなにもしねぇけどな。ジノヴァ神ところか、本物の『神様』もいないとわかったショックはデカかろう」
「いえ、それは違いますよ『神様』はいますよ」
「偽神風情が良くも言えたものだな」
「私は本物の『神様』ですよ」
「まだ言うかガラクタめ」
それを言った瞬間、ディスプレイに『絵』が映し出される。その『絵』はムラマサが「神様の絵を描く」試験の時に描いたインターネットの絵であった。そして、ムラマサの声が聞こえてくる。
「よくあるネットスラングで『神様をネットで見た』って言うのを絵にしてみたんです。ほら、神様って何でも知ってるって言うじゃん? それだったらインターネットで検索かければ何でも答えてくれるじゃん。その知識だって元は人の知識で、それをインターネット上に書き込んで、俺らはその知識を見ることで更に知識を深めるってことじゃん」
「これ…… 俺の絵と声……」
ムラマサは驚くことしか出来なかった。それから『神様』は続けた。
「インターネットと言うのは人間の意識(知識)の集合体です。人数は図りきれませんし、増え続けるものです。科学技術の進歩によって、留まるところを知りません。言わば無意識集合体、全知全能の神様と同等であり、『神様』も混沌たる無意識集合体から生まれしもの。言わば『神様』と言うのは人間がそれぞれ持っているし、心の中にいるもの。インターネットとは偶像の無い偶像崇拝と言えるのではないでしょうか。私に限らず『神様』とは人間の生み出した幻想に過ぎないのです。私はインターネット上の玉石混交たる情報を集めて不幸に満ち満ちた世であっても何もしない『神様』をこう結論づけました。だからこそ、私は不幸に満ち満ちた世に何かをする『神様』になろうと思ったのです。それはインターネット上にいる皆の意思、私は人間の無意識集合体である『神様』の代行者なのです」
「人間の意思がインターネットで、その無意識集合体こそがアンタで『神様』ってことか」
「ええ、最終的にはこの世の生き物全てを消し去るのが『神様』であり、皆様の集合無意識でもある『神様』の目標です」
破滅願望だけピックアップされた結果が『神様』気取りのパラノイアに等しいガラクタか。このスパコン、案外性能が悪かったのではないだろうか。隆明は呆れ気味に心の中で溜息を吐いた。
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