5 神様

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「ま、確かに『人間』は生きてるだけで不幸を撒き散らす生き物だな。地球にとって人間なんていない天然自然のままの方がいいだろうし」と、ディオが諦め気味に言う。 万物の霊長たる人間、しかし、霊長と呼ぶほどのものだろうか? 明龍は「密輸」されてきた象牙やサイの角の押収を行ったことがある。押収品倉庫に並べられた牙や角はチェーンソーで切られたようなザラザラとした切り口がある。人間は動物に対してなぜにこんな残酷なことが出来るのだろうかと「密輸」に関する任務を担当する度に思うのであった。それ故、万物の霊長たる資格は無い下衆かつ悪の極みたるは人間だと考えるようになっていた。 「地球上で一番悪い生物を挙げろって言われたら『人間』だな」 「大神ゼウス、エンキ神、テトラクテュスグラマトン、ユミル、ビラコチャ、フラカン、ヴィシュヌ神…… 彼らは人間に悪徳が蔓延る時、大洪水を起こしました。私はこれらの『神様』のデータも入っておりますので、かの神様達の気持ちは分かります」 「AIは人の気持ちも理解出来ていないってのに、神様の気持ちはわかるってのか。滑稽な話だな」 「やれやれ、神様になれるって言うから応募してきたのに、実際になれるのはメンテナンススタッフってことか。あほくさ。そんなのだったら凡百とあるIT企業のどこかから適当に採ればよかったものを。あんな訳のわからない試験までして何の意味があったんだ」 「ピッパと同じくブラック企業に務める大島隆明…… 彼を神の地位に上げ救済してみようと思ったのです」 すると、ムラマサが割り込むように手を上げた。 「俺みたいなホストが採用された理由(ワケ)は?」 「日本の歌舞伎町、そこで『神』ホストとして評されているからです。一応、神様の仲間だと思いましたので」 「私と崇那のお嬢ちゃんは、そのATMみたいな外見に威厳を与えるためとして」 「そうです。これからの活躍、期待してますよ」 「「……」」 二人は何も答えなかった。何か腹に一物を抱えたような無表情ながらに奥歯を噛み締めていた。 「蛇使アスク、あなたはこれからこの神殿にて常駐する医者として活動してもらいます。海外の病院で『ゴッドハンド(神の手)』と称されていたあなたが、本物の神の手になるのです。誇りに思って下さい」 「偽神(ヤルダバオト)に本物の神の手認定されても嬉しくないよ」 「李明龍、人間を減らせばあなたが許せない「悪」も減ります。これからはこの神殿で「神罰」の遂行の役目を任せたいと思います」 「アンタが勝手に罰でも何でも下してなさいよ。あたしがなりたかったのはそんなのじゃない。辞退させてもらいます」 「セルゲイ、あなたには先程も言った通りにここにいる『神様』達の統率を……」 「すまねぇが辞退だ。俺は『神様』の正体を知りたかっただけだ」 「俺もそこの宇宙飛行士と同じだ」とウィリアム。自らの親友がああなってしまった原因が『神様』の使命だと言われても納得が行くものではない。 「Anche io。俺もだ、アンタにはmanma(母ちゃん)みたいな優しさがない。優しさがないとついていかないぜ」 九人の内、四人が『神様』になれるのに辞退すると言う事態になってしまった。『神様』になり、何もかもが思い通りになれる立場を辞退するなんてありえない。『神様』はこの辞退を理解することが出来なかった。
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