氏康とカレーと私

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 例えば、食事にサラダが出たら、ドレッシングが氏康との勝負になる。  ドレッシングのボトルを傾け、一発で必要な量をきちんと掛けられれば私の勝ち。多く出過ぎてしまってサラダがびしゃびしゃになったり、少なすぎて後で足すことになったりしたら氏康の勝ち。もし氏康が勝ったら、私の「脳内北条家」は彼の予言通りに滅亡する。  食事にカレーが出たら、ルーとご飯の配分が氏康との勝負になる。  全体のバランスを慎重に確かめながら、スプーンに乗せるルーとご飯の分量を一口ずつ適度に調節して口に運ぶ。そうやって食べていって、最後にルーとご飯が同時に無くなれば私の勝ち。ルーとご飯、どちらか一方が余ってしまって、最後にルーだらけのびしゃびしゃなカレーを食べる羽目になったり、ほぼご飯だけを食べるような状況に陥ってしまったりしたら氏康の勝ち。そして氏康が勝てば、私の「脳内氏政」は豊臣秀吉に降伏し、責任を取って切腹する。  そんな風に私は、食事のたびに人知れず頭の中で北条氏康との戦いを繰り広げていたわけだが、それを続けるうちにいつの間にか、私はカレーを素直に食べることができなくなっていた。
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