氏康とカレーと私

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 カレーが目の前に運ばれてきた瞬間、私は素早くルーとご飯の量を目でチェックする。  時々、どう見ても明らかにルーが多すぎたり、ご飯が多すぎたりするアンバランスなカレーが運ばれてくることがあるが、その瞬間に私のテンションは急降下だ。「これは苦しい戦いになる」と、食べる前から表情が険しくなる。  「どうした、ちゃんとルーとご飯の量をいい塩梅に差配してみせるがよい」と私をあざ笑う「脳内氏康」の顔が頭に浮かぶ。その嫌味な笑みを思い描くたびに、絶対に負けてたまるかと私は闘志を燃やす。  私の脳内北条家は滅亡させない!私の脳内小田原城はこれからも落城せず、永遠に生き続けるんだ――!  そう誓うと、私はただひたすらに、ルーとご飯の分量バランスだけに全神経を集中させ、最後まできっちり均等に食べ終えることだけに専念する。  そして、無事にそれが達成されて初めて、私は満足げに「見たか氏康」と安堵のため息をつくのである。  そんなバカバカしいことで頭を煩わせるくらいなら、カレーなんか食べなければいいのにと思われるかもしれない。  だが、面倒なことに私にとってカレーは特別な存在なのである。カレーを愛してやまない私は昔から、毎週金曜をカレーの日と決めていて、昼食は必ずどこかのカレー屋に入るのを習慣としている。  それなのに、氏康との勝負を避けるために、長年続いたこの「金曜はカレーの日」という習慣を曲げるなど、それこそ北条氏康から敵前逃亡したことに他ならない。私のプライドに賭けて、それは絶対にありえないのだ。  私は氏康から逃げない。  それでも私は毎週カレーを食べ続け、毎回氏康に勝つんだ。
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