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2.待ち伏せなんて呼ばないで
外に出れば艶やかで鮮やか、それでいて初々しい景色がそこらかしこに見られた。
成人式が終わったのだろう。多くの新成人たちが楽しげに行き交っている。
「若いなぁ」
知らず知らずのうちに呟いていた。
本当に若い。眩しいくらいにキラキラしてる。綺麗な振袖姿の女の子達だけじゃなくて、浮かれまくってる男達も可愛らしいというか……若いなっていう感想しか出ない。
「若いでしょ」
「あっ、芽衣子ちゃん」
ぼんやり佇んでこの光景を眺めていた僕の肩をそっと叩いたのは、茶九 芽衣子である。
彼女もまた振袖姿。濃い緑系の豪奢な華の描かれた柄は、個性を持ちつつも彼女自身の雰囲気や容姿にとても似合ったものだと思う。
僕は着物ことおろか、女性のファッションはよく分からない。
それでも。
「とても綺麗だ」
そう褒めずにはいられない。
彼女は、嬉しそうに微笑むと『ありがと』と答える。
……彼女のお姉さんは僕の会社の元先輩で、とてもお世話になった。
穏やかで優しくて、仕事もできて……僕の恋人との間の良き理解者、相談相手だったりする。
僕には男の恋人がいて付き合う時も色々あったし、その後も色んな事があったけど。この姉妹が居なかったらどうなっていたことやら。
それくらいに、僕は彼女達に頭が上がらないのだ。
元々妹である芽衣子ちゃんの方は恋人である恭介の知り合いだけど、今じゃ僕の方が彼女と仲良くさせてもらってる。
なんだか結構気が合うんだよな。
「成人、おめでとう」
「ありがとう……すごく嬉しい」
この場に彼女のお姉さんがいたら、とても良かっただろうに。
#お姉さん__・__#は、現在異国の空の下だ。恋人と共に旅立ってしまったのは随分前の事だ。
「馬子にも衣装ってやつですよ」
「またまた。良く似合ってるってば」
おどけて見せる彼女の首元の着付けをさり気なく直してから、連れ立って歩き始めた。
「今年はなんだかシックな色の着物が多く見られる気がするなぁ」
僕の言葉に彼女が軽く笑う。
「毎年ちゃんと見てるんですね?」
「まぁね。なんだかんだで、着物姿の女性が結構好きなんだよ」
僕の恋人は男だけど、別に生粋のゲイってわけじゃあない。
むしろ今でも女の子の方が見ていて好ましいし、性的興奮するのは『そっち』なのは彼には内緒だ。
なんせあの男……恭介の独占欲と執着心は酷い。付き合う事になってからも、しょっちゅう僕を脅してくる位だから。
多分不安なんだろうな。
彼自身、元々人間不信な所あるし。今まで女遊びは激しかったみたいだけど、ちゃんと#付き合う__・__#ってことをしてこなかったらしいから。
そこで初めての男の恋人を持った彼は、色々不安だったりするんだろう。
……僕は良い迷惑。
でもこれも惚れた弱みってやつで、仕方ない。
互いが、またはどちらかが愛想尽かすまではこのままいくんだろう。
「でも良かったんですか? こっそりあたしと会ってたら、#あのサイコホモ野郎__・__#にまた怒られますけど」
「あー……まぁ平気だよ。ちゃんと対策しといたから」
対策と言えるか微妙だけど。
ちゃんと前の二日は宣言通り、疚しい行動はしてないし。
さすがに学生の彼が三日も恋人のストーカー行為に勤しむとは思えない。
それに家を出る時に厳重に注意してたけど、それらしい人影もなかった。
「……大丈夫ですかねぇ」
まだ心配そうな、いつもに増して可憐な彼女に僕は大きく頷いて見せる。
そして綺麗に手入れされた指先に触れて、言う。
「それでも必要なことなんだよ。ねぇ、手伝ってくれるだろ?」
芽衣子ちゃんは小さく息を吐いて、微笑んだ。
「仰せのままに……お姫様」
当然、お姫様なら君でしょ! とツッコミ入れた。
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