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第9記「探偵」
昨日。ダサク2頁とダブン2頁を書いた俺は、本棚の上の時計を見た。文字盤は「夜の11時半」を示していた。おいおい。もうこんな時刻かよ。恐ろしいほどの遅筆である。たかが4頁を書くのに何時間かかっているんだという話である。
同じ2頁でも、俺の場合、随筆に比べると、小説は倍近い時間を要してしまう。前者は脳内に浮かんでくるものを文字に変換するだけだから、割と楽である。何も考えず、湧出してくるままに打ち込めば良い。
即興の産物だが、規定の字数(1000字)に収めようと、彼方此方を切ったり削ったりしている内に、自然と文章が磨かれるようである。磨いた結果が「あれかいな」と、云われてしまったら、返す言葉がないが…。
小説は「相当無理しているんだろうな」と、自分でも思う。編集そのものは楽しいけれど、どう書けばわからなくて、頭を抱えてしまうことも少なくない。当然、作業はストップする。石化していても仕方がないので、ラジオを聴いたり、コーヒーを飲んだり、窓越しに外を眺めたり、本の整理をしたり、腕立て伏せをしたりする。
酒は呑まない。作業中の飲酒は慎んでいる。酒を呑むのは、愛機の電源を切ってからである。それが、自身に課したささやかなルールだ。禁を破ったことは一度もない。
布団に潜り込み、眠気が訪れるまで、映像(DVD)を眺めて過ごす。昨夜は『不死蝶』を観た。横溝正史原作の猟奇ミステリーだ。1978年に放送された作品である。我らが迷探偵―じゃなかった―名探偵、金田一耕助を古谷一行が演じている。
俺が一番好きなのは、中尾(彬)耕助だが、古谷耕助も悪くはない。決めつけはなるべく避けるようにしている。色んな耕助がいていい。先輩の演技や役作りを意識し過ぎるのは良くない。自由に演(や)ればいい。
俺自身「耕助になりたい」と、半ば本気で考えていた時期があった。奔放闊達に生きている感じが良い。奔放ではあるが、野蛮ではない。礼儀作法はちゃんとわきまえている。それに優しい。犯人に同情してしまう(!)あたりも面白い。
春樹さんだったかな?横溝先生のことを「金田一耕助みたいな人」と評していたのは…。作者と主人公は、やっぱり、似ちゃうものなんですかね。〔15年3月15日〕
♞中尾さんの代表作『本陣殺人事件』は1975年に公開された。石坂さん主演の『犬神家の一族』の前年である。
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