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田中がテーブルの上に置かれたお茶を飲む。その心はとても軽い。
世界が破滅すると田中が予言した日も残り時間が30分を切った。そろそろテレビ局のスタッフの近くに行った方がいいだろう。もし事態が悪くなった時に彼らと離れていたら助けてもらうことが出来ないかもしれない。だから彼らの近くになるべくいるのがいいだろう。でもそうなると森田のインタビューを受けなければならない。森田のインタビューは的確で相手の痛い所をついてくる。それにしつこい男だ。だから今はまだ森田たちと離れた場所に田中はいたのだ。だがもうそろそろいいだろう。あまり時間が押し迫ると血気にはやった信者たちが何をするか分からない。
田中がゆっくり椅子から立ち上がり辺りを見回してその動きが止まる。
森田がいない。いや森田どころかカメラマンや他の撮影スタッフたちもいなくなっている。トイレにでも行ったのだろうか? まさか皆でトイレに行くわけもない。そもそもさっきまでそこに置いてあったテレビの撮影用の照明器具もなくなっているじゃないか。
不審に思った田中が近くにいた信者に彼らの行方を聞いた。
「彼らなら帰りましたよ。他に事件が起こったとか何とかで――」
田中の表情が硬直する。
まさか、どうして。あともう少しで予言が外れて暴れだす信者たちの姿をカメラに収めることが出来るというのにそれをほうっておいて他の現場に行くなんて――。
田中の視線が窓の外のテレビ局の中継車を見つける。何だまだいるじゃないか。田中の胸に安堵の気持ちが訪れた。それもつかの間、早く森田たちを引き止めないと彼らが行ってしまう。玄関に向かおうとした田中が車の運転席にいる信者の姿を見つけた。田中と目があった信者は無言のまま中継車を走らせてどこかへ行ってしまった。
田中の背筋が凍りつく。
どうして信者が運転しているんだ? それに森田たちはどこに行ってしまったのか?
田中の額から汗が一筋したたり落ちた。
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