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田中が急いで裏口に向かおうとする。
もうこんな所にはいられない。もしこのままここにいたら信者たちに何をされるか分かったものではない。
田中が信者たちを押しのけ裏口の前まで行くとドアが開いた。そこからは身長1メートル90センチの白装束に身を包んだ一際大きい信者が入ってきた。彼は田中を上から無表情で見下ろす。二人の姿はまるでダビデとゴリアテのようだった。ダビデは巨人ゴリアテを打倒したが田中が巨漢の信者を打ち倒す可能性はない。それは相手の腕に盛り上がる筋肉と田中の細い首を見れば小さい子供でも分かることだろう。
田中が目の前の巨漢の信者に怖気づき後ろに下がる。その姿を周りの信者たちがじっと見つめる。彼らの顔の表情には笑みというものがまったくない。それが彼らの態度の真剣さを表している。
田中はすっかり怖くなり、その頭はパニック寸前になっていた。
その時田中の頭にある考えが浮かんだ。
そうだ。森田たちに助けてもらえないのなら自分で警察に通報すればいいじゃないか。教会のこの異様な雰囲気。そして姿を消した森田たちテレビ局の撮影クルーたち。条件は整っている。警察に通報すればすぐに助けに来てくれるだろう。もしそれで足りないのであれば何か事件をでっち上げればいい。そうだ、この教会で大麻か何かを使った非合法のドラッグパーティーをしているとでも通報しよう。そうすれば警察は飛んでやってくるに違いない。
田中は先程まで座っていた椅子の近くに置いてあるテーブルの所にやってきた。確かそこに田中の携帯電話がおいてあるはず。
よし、あった。田中が携帯に手を伸ばそうとした時近くにいた信者がテーブルの上のお茶をこぼして携帯を水浸しにする。
「あっ!!」と田中が声を出しそうになる。でもすぐに携帯が防水加工であることを思い出す。なら大丈夫だ。
田中が携帯に手を伸ばそうとすると一足先に信者の一人が「もうこれは駄目ですね」と言って、携帯をゴミ箱に入れて持って行こうとする。
「いや、それはまだ大丈夫だから」
田中の声にゴミ箱を持った信者が立ち止まる。そして携帯を床に落とすとそれを足で踏んづけて壊してしまった。
「あっ、いけない。よく見ないで教祖さまの携帯を壊してしまった」
「おい、気をつけろよ」
まるで感情のこもっていない新人俳優の台本の棒読みのような声で信者たちが言う。そして液晶画面の割れた携帯をゴミ箱に入れるとそのまま教会の外の出ていってしまった。
その後姿を田中が呆然として見守る。
彼らはもはや――――。
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