地球最後の日

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「戻ってきたな」  悪魔がまたクッ、クッと笑う。その手には金でできた首飾りが握られていた。それは神ペテテロパスを呼び出すために必ず必要とされているものである。もしそれが無かったとしたら予言が外れた時に田中が言い訳をするかもしれない。たぶん信者たちはそう思ったのだろう。信者たちの願いは田中を言い訳の出来ない状況に追い込み、どんな反応をするか楽しんだ後で田中に制裁を加えることにあるのであろう。だからこそ田中が祈祷室に金の首飾りを取りに戻ることを許したのだ。  それを受け取る田中の顔には緊張から解き放たれた感謝のゆるんだ表情が浮かんでいる。  まさか悪魔に感謝をする時がくるなんて思ってもみなかった。世の中何が起こるか分からないものだ。いやそんなことを言っている所を信者に聞かれたらまずいだろう。散々世界の未来が分かると言ってきたのだから。 「それで――」  悪魔の言葉を遮るように田中が手を出す。それをおもしろそうに悪魔の紅い瞳が見つめている。自分よりも劣った生き物がしゃべるのを邪魔するというのだから滑稽な姿に見えるのかも知れない。それはまるで人間が知能の劣った犬や猿たちを見て心を和ませるのに似ているのだろう。 「1つ確認しておきたいことがある。世界が滅亡するということは地球上の人間はすべて死んでしまうのか」  悪魔が田中の顔をじっと見つめる。それは質問に答えることよりも、田中の反応を楽しんでいるかのようにも見える。 「それがお前の予言だろう」 「……そうか。でもすべての人間が死んでしまうなんて――」  さすがに全世界の人間が死ぬ。つまり70億人以上の人間が死ぬことになるのだ。それを思うと事の重大さに田中の決心がゆらぎそうになる。  悪魔はそのことに関してまったく顔色1つ変えない。まあ悪魔に人の命の価値について考えろというほうが無理がある。 「お前は人が死ぬのが嫌らしいな。ならどうして世界が滅ぶなんて予言をしたんだ」 「それは――」  他の宗教の教義をパクったとは言えない。しかし悪魔にはすべてお見通しなのだろう。まるでバカでも見るような目で田中を見つめている。確かによく考えもせずに大変なことを田中は言っていた。しかしそれは予言が外れると思ったからにすぎないのだ。 「まだですか」  部屋の外から信者の声が聞こえる  田中は答えない。  ドンッ、ドンッ。  ドアをノックする音が聞こえる。  それでも田中は答えない。 「このまま部屋に立て籠もるつもりじゃないのか?」 「今更引きこもりみたいなことをしてみっともない」 「いいからこじ開けちゃえよ」  信者たちのヒソヒソと相談する声が聞こえる。  どうやら時間がもう無いようだ。もうすぐ信者たちがドアを押し破って入ってくるに違いない。祈祷室のドアは特別製で普通の扉よりは頑丈だが彼らを防ぐ力など無い。もう迷っている暇はなさそうだ。 「分かった。契約をしましょう」
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