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敏恵は本命の男と出会えるまで出来れば、処女を守っていたかったから当然ながら後ろめたさを感じた。一方、勝也は本命の女と出会えるまで童貞を守っていたかった訳ではないから敏恵を案外抵抗なく仮借できた。そんな男女の馴れ初めがあってから三日後、終戦となった。
結局、勝也と秀臣は特攻命令を受けることなく生き残った次第だ。
二人とも故郷は焦土と化した後だから戻っても何もない。だから取り敢えず有り余る金と部屋を有する奥さんの家に独り立ちできるまで下宿することになった。
となると秀臣は嫌でも勝也と敏恵の蜜月の仲を見ることになる。尚且つ勝也が町工場に就職して真面目に働くようになると、本当に敏恵と夫婦みたいになったので秀臣はぐれてしまい就職もせず昼はぐうたら過ごし夜は女遊びに耽るようになってしまった。
そうして勝也を妬み恨みつつ奥さんの家に居た堪れなくなった秀臣は、夜遊びする内に作った情婦の家に入り浸るようになった。
その情婦は典型的なお水で育ちの良い敏恵とは比べ物にならない位、下品なのであった。だから秀臣は紐でいるのも嫌気が差して来て勝也が敏恵を正式に娶った日には勝也に対して嫉妬と怨恨がマックスに達し、決闘を申し込む仕儀になった。
卑怯な手を使って勝也を傷つけたところで自分が罪を被るだけで憂さは晴れない。いつか勝也に習った武士道に倣い正々堂々と戦って勝也を負かすことしか憂さを晴らす手はないと秀臣は悟ったのだ。
で、勝也が請け合い、決闘は奇しくも二人が敏恵を誘った河川敷で行われた。
激しく殴り合うかと思えば、くんずほぐれつの大格闘。お互い服はどんどん破れ血が滲んで行き、顔はどんどん浮腫んで口からも鼻からも血が出て目は血走って吊り上がった儘だ。
そうして二人が伸びる寸前になった時、勝也が白旗を上げた。
「参った。降参だ。お前には負けたよ」
「そうか」と言って秀臣は襤褸雑巾のようにくたくたになりながら立ち上がった。その崩れ痛み切った顔は然も満足げだった。
それを見て勝也は安心して言った。
「堅気になって敏恵よりいい女をものにしろよ」
「ああ」と秀臣は深くぐったりと頷いた。
斯くして二人の間に本物の友情が芽生えたのだった。
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