決闘

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「実際、勝てる見込みがない戦局の中で特攻しか勝つ戦法はないなぞという言語道断な無茶苦茶な愚案に上層部のほとんどの者が賛同し、一億総特攻をスローガンに掲げ、特攻作戦を実行に移しているのであってですねえ、それじゃあ降伏を先送りして其の分、犠牲者を増やすだけなのに下層部の者どもは言い付けられるが儘、イエスマンの儘、犠牲者となっているのです。そうでしょう!」 「ええ、そうですわ!」 「実際、同胞たちが敵艦に爆弾の一部と化して体当たりして木っ端微塵になり、而も多くは敵艦に辿り着く事なく海の藻屑となってしまうのです。武士道では死に値せざる事の為に死するは犬死と賤しめていますが、正にそれです!然るにそれを勇敢な最期と評する大馬鹿も居る位ですから全く遣り切れなくなります。勇敢っていうのはですねえ、理性が伴うものなんです。爆弾野郎に理性なぞ有って堪るもんですか!真剣に論語を読めば、勇とは義を為す事と悟るでしょうが、爆弾野郎が義を為す訳が無いでしょう!」  敏恵はすっかり熱を帯びて来て獅子吼する勝也に対し、こんなことをこんな長々と理路整然に言える人は他にはいないと思い、ひどく感心して圧倒された儘、「ええ、そうでございますわ!」と丁重に答える。
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